国立研究開発法人 水産研究・教育機構

お問い合わせ

養殖海苔の全ゲノム情報から「色落ち」の指標となる遺伝子候補を特定!

公表日:2025年5月9日

水産資源研究所 生命情報解析部 安池 元重

養殖海苔の栄養不足による「色落ち」現象を全ゲノムレベルで解析し、ノリの細胞内で起きている生理応答の変化を分子レベルで推定しました。さらに、「色落ち」程度の指標となる遺伝子候補(7個)を特定し、それらを用いた評価手法を開発しました。

 

 ノリ養殖の現場では、窒素やリンなどの栄養が不足すると「色落ち」が発生します(図1)。この現象は乾海苔の等級や価格だけでなく、生産量にも大きく影響します。しかし、ノリが栄養不足にどう応答するのか、その生理的な分子メカニズムはまだ十分に解明されていません。

 そこで本研究では、栄養豊富な条件と、栄養不足の条件で培養したスサビノリを用いて、ノリ全ゲノムから予測された17,443個の遺伝子の発現量を比較しました。

 その結果、栄養豊富な条件では光合成、呼吸、タンパク質合成やエネルギー代謝に関わる遺伝子群が活性化され、ノリの生命活動が活発になっていることが分かりました。一方で、栄養不足の条件では、外部物質の取り込みやタンパク質分解に関わる遺伝子群が働き、細胞外の物質を栄養源として利用しようとする反応が起きていることが推察されました。

 さらに、「色落ち」程度の指標として期待される7個の遺伝子を特定し、定量PCR(遺伝子の発現量を測る方法)による評価手法を確立しました(図2)。これらの遺伝子は「色落ち」現象に先立って発現量が増加することが示唆されており、養殖現場での「色落ち」予測に活用できる可能性があります。

 現在、水産庁の委託事業において、これらの遺伝子発現を指標とした「色落ち」に強いノリ品種の選抜に向けた研究開発を進めています。

 

水産庁委託「養殖業成長産業化技術開発事業」のうち「環境変化に適応したノリ養殖技術の開発」によって実施されました。

 

本研究成果は、国際科学雑誌「Marine Biotechnology」(電子版)に2025年5月9日に掲載されました。

URL:https://doi.org/10.1007/s10126-025-10461-w

 

図1の画像

図1 通常ノリ(左)と色が薄れて黄色くなった色落ちノリ(右)

 

 

図2の画像

図2 栄養不足で発現量が上昇した遺伝子の定量PCR(遺伝子の発現量を測る方法)の結果