国立研究開発法人 水産研究・教育機構

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音を用いて水面近くのサケ稚魚を見つける!

公表日:2022年4月1日

 

研究実施者:水産技術研究所 環境・応用部門 水産工学部 澤田 浩一 ほか

 

 水中の魚の検出には魚群探知機がよく用いられますが、サケ稚魚は水面近くを泳ぐ傾向があり、船などから音を下向きに送波する魚群探知機では検出が困難です。このような場合には、送受波器の方向を横向きや上向きにして送受する方法が効果的ですが、新たに腹側や側面方向の後方散乱(音の、来た方への反射)の強さ(Target Strength、以下TS)の特性を調べることが必要となります。このとき、魚の後方散乱では鰾(うきぶくろ)の影響が大きいことが知られています。

 そこで、軟X線によるサケ稚魚の鰾の形状測定により、厳密なTS推定が可能な理論モデルで鰾の形状を近似できるか検討しました。その結果、鰾の高さと幅の比は1に近く、また長さは標準体長に比例していることから、中空回転楕円体級数理論モデルが適用可能であることがわかりました。

 次に、計量魚群探知機で良く使用される4つの周波数(38、70、120、および200kHz)について、同モデルによって鰾形状に基づくTSを予測しました。加えて、屋内水槽でサケ稚魚実物のTS測定を行い、予測値との比較を通じてモデルの有効性を検証しました。

 さらに、一般に魚の姿勢分布により平均TSが大きく変動することが知られていることから、65尾のサケ稚魚について平均姿勢角や姿勢角の標準偏差が異なる複数の姿勢分布を仮定し、理論モデルにより期待される平均TSを計算しました。計算結果から、姿勢分布の標準偏差を一定として、異なる平均姿勢角を与えた場合、体長を波長で規準化した値が低い方(体長が同じであれば周波数が低い方)が平均TSは高くなり、平均TSの変動が小さくなる傾向が示されました。

 これらの結果から、サケ稚魚の音響調査には、上記の4つの周波数の中では、低周波側の38kHzを用いる方が有利であることがわかりました。これは、サケ稚魚と似た有鰾魚(鰾を持つ魚)である琵琶湖のコアユなど、有鰾かつ小型の魚の音響調査についても低周波が有利であることを示唆しています。本研究の成果は、サケ稚魚のモニタリングの高度化に資するものであり、効率的な放流に寄与することが期待されます。

 本成果は、『海洋音響学会誌』の49巻2号46-67ページに、2022年4月1日付で掲載され、2023年度海洋音響学会論文賞を受賞しました。本研究は北海道大学、三陸やまだ漁業協同組合 織笠川さけ人工ふ化場、東北区水産研究所(宮古、当時、現水産技術研究所)の協力のもと実施しました。この場をお借りして感謝申し上げます。

 

論文掲載先https://doi.org/10.3135/jmasj.49.46

(J-Stage:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jmasj/49/2/49_46/_article/-char/ja