国立研究開発法人 水産研究・教育機構

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有害赤潮プランクトン(カレニア・ミキモトイ)赤潮がいつ終息するかを予測するバイオマーカーの発見

公表日 2023年3月15日

 

研究実施者:水産技術研究所 環境・応用部門 環境保全部 化学物質グループ   羽野 健志
                            有害有毒藻類グループ 外丸 裕司

 水中の微細生物(植物プランクトン)が異常増殖して水の色が変わる「赤潮」は、養殖漁場でひとたび発生すると甚大な漁業被害を引き起こします。赤潮が「いつ終わるか(終息予測)」の技術開発は、養殖業の持続的な発展には不可欠です。
 本研究では、終息予測技術の開発を目指し、プランクトン細胞内の代謝産物を網羅的に調べ、終息前の細胞に特徴的な代謝産物を探索しました。

方法

  1. 有害赤潮プランクトンの1種カレニア・ミキモトイ(以下、カレニア)を栄養塩濃度の異なる3種類の培地(完全培地: 窒素(N)・リン(P)を十分量含む、N欠培地:Nのみ完全培地の1月10日、P欠培地:Pのみ完全培地の1月30日)で培養し、細胞密度の変化を調べました。
  2. 培養期間中、定期的にサンプリングを行い、細胞内代謝産物の変化を調べました。
  3. 終息に向かう時期(定常期後期)に細胞内で特異的に変動する代謝産物を探索しました。

結果

(上図)完全培地下におけるカレニア細胞数の経時変化。細胞密度は40日前後まで増殖した後、42―47日付近から下降(終息期への移行)を始めました
(下図)完全培地下における細胞内G/G比は終息に向かう時期(定常期後期)でのみ増加が見られました。

(上図)完全培地下におけるカレニア細胞数の経時変化。細胞密度は40日前後まで増殖した後、42―47日付近から下降(終息期への移行)を始めました。
(下図)完全培地下における細胞内G/G比は終息に向かう時期(定常期後期)でのみ増加が見られました。

  1. カレニア細胞群は対数増殖期、定常期前期、定常期後期を経て終息期に至りました(上図)。
  2. カレニア細胞内から得られた46種の水溶性代謝産物は、栄養塩条件ならびに培養日数の経過に伴い大きく変動しました。
  3. すべての培地区で細胞内のグルコースとグリシンの比(G/G比)が定常期後期に顕著に増加していました(下図)。また、同様の現象は珪藻キートセロス・テヌイシマスでも観察され、G/G比は種横断的に植物プランクトン細胞群の終息予測に有用である可能性が示唆されました。

G/G比の特徴と今後

  1. 専門的な知識と経験を要する赤潮プランクトンの観察と計数が理論上不要となりです。
  2. 終息1週間前を予測することを目指し、養殖漁場での検証を進めていきます。
  3. G/G比を用いた簡便迅速な終息診断技術の開発に繋げたいと考えています。

 本研究は農林水産省プロジェクト研究(16808839)、ならびに科学研究費(19H00956)の助成を受けて行い、現在特許申請中(2021-016798)です。

 この研究成果は、Hano and Tomaru, “Chronological age-related metabolome responses in the dinoflagellate Karenia mikimotoi, can predict future bloom demise”として国際雑誌『Communications biology』に、2023年3月15日付のオンライン版に掲載されました。