公表日 2022年12月15日、2023年5月15日
研究実施者:水産技術研究所 環境・応用部門 水産工学部 水産基盤グループ 川俣 茂 ほか
外海沿岸域の海底に設置する魚礁等の構造物の設計では、波力に対する安定性評価のため構造物に作用する波力の算定は不可欠です。不規則波下での波力は、海底付近で発生する波動流速の時間波形に規定され、また個々の波で異なるため、どの波で最大波力が発生するかを考える必要があります。
従来の設計では、最大波力は最大波(波高が最大の波)で発生し、そのとき底面波動流速のピーク値も最大になると仮定してきました。しかし、造波水槽実験により、最大波力はほとんどの場合、従来の仮定とは異なり、流速全振幅が最大の流速波形(最大流速波形という)で発生することを明らかにしました。また、波力算定には、流体力の時間変化を流速の2乗に比例する力(抗力)と流体の加速度に比例する力(慣性力)の和で表すモリソン式が国際的標準公式として一般に用いられますが、その適用には流速の時間波形とともに、抗力係数と慣性力係数という2つの流体力係数を定める必要があり、条件を簡略化しなければ適用し難いという問題もありました。
そこで、波力のピーク値を、極小流速から極大流速までの流速半振幅Uaと時間Tppのみから直接的に求められる新しい公式を考案し、それにより波力のピーク値をモリソン式よりも精度よく算定できることを実験により示すとともに、最大流速波形のUaとTppを、既存の設計法で求められる波の諸元(有義波高、有義波周期、最大波高)から計算できる実験公式を構築しました。
本研究は、水産庁委託事業「漁港・漁場施設の設計手法の高度化検討調査」により実施しました。これらの研究成果は2つの論文にまとめられ、海洋工学の国際誌『Ocean Engineering』より2022年12月15日(Vol.266)と2023年5月15日(Vol.267)にオンラインで公表されました。
従来は最大の波力(水平流体力)が波動流速が最大になる波(図(a)では波A)で発生すると考えられてきましたが、実際はその大部分は、流速全振幅が最大のときの波(図(a)の波B)で発生することがわかりました。このように浅海域での不規則波による底面流速波形は非常に複雑です。そのため、その個々波で発生する最大波力Fpの精度のよい予測は、流体力算定の国際標準法であるモリソン式(図(b)右)に実測流速を用いて計算しても困難でしたが、提案式(図(b)右)は簡単な式であるにもかかわらず、可能になりました(図(b))。