国立研究開発法人 水産研究・教育機構

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マサバの行動モニタリングに成功しました

公表日:2023年3月16日

 

研究実施者:水産資源研究所 水産資源研究センター 浮魚資源部 安田十也・木下順二・新野洋平*
      水産技術研究所 沿岸生態システム部 奥山隼一
      *現所属:愛媛県水産研究センター

電子タグでマサバの行動を長期にわたって記録することに成功し、マサバが多様な移動パターンをみせることを明らかにしました。

 私たちは大衆魚の代表格であるマサバ(Scomber japonicus)が、いつ、どのように海の中を移動しているのか調べました。この研究で活躍したのが、深度・温度センサが搭載された電子タグと呼ばれる計測機器です(図A)。私たちは電子タグを取り付けたマサバを対馬海峡に放ち(図B-D)、海の中を自由に泳ぐ様子を長期にわたって記録しました。

 7個体の1,000日以上にわたる行動記録を分析して分かったことは、マサバが昼間に深い場所で過ごし、夜になると浅い場所に移動する日周鉛直回遊(diel vertical migration)を行っていたことです(図E)。マサバの回遊した深度は、海表面からおよそ200メートルまで。海洋学で表層(epipelagic zone)と呼ばれる範囲内でした。しかし、この行動パターンは産卵期を迎えると不思議と見られなくなりました。繁殖を迎えた個体は、安定した環境を好んだり、リスクを伴う移動を控えたりするのかもしれません。

 さらに、温度が急激に変化する深度帯(水温躍層、thermocline)で、マサバが短時間の上下移動をしている様子が記録されました。外温性動物(ectotherm)であるマサバの体温は周囲の水温の影響を受けて変化します。潜る前の水温(約15℃)はマサバの好む水温だったのに対して、潜った先の水温(約7℃)は冷た過ぎて好ましくない温度でした。異なる水温域を行ったり来たり、マサバはいったい何をしているのでしょうか?ここで、水深、水温、体温(腹腔内温度)のデータを並べて図示すると、面白いことが見えてきました(図F)。温水と冷水との間を往復するマサバの体温は驚くほど安定していたのです。この短時間の往復行動は、体温の変化を抑えつつ、不適な冷水にある「何か」を獲得するための巧みな戦術と言えそうです。まだ証拠はつかめていませんが、私たちは、この「何か」は「豊富なエサ」、という仮説を立てています。なぜなら、この海域のマサバの胃から出てくるキュウリエソ(Maurolicus japonicus)は、このような冷たい水温域に好んで生息しているからです。

 本研究でマサバに取りつけた電子タグは、漁業や鮮魚店等、水産業の様々な分野で働く方々によって発見され、私たちのもとへ戻ってきました。国内だけでなく、海外からタグを発見したとの知らせが届くこともありました。電子タグの回収にご協力くださった皆様方に、この場を借りて、改めてお礼申し上げます。

本研究の成果は、水産資源調査・評価推進委託事業(水産庁)で得られたデータを利用し、海洋学の国際的な学術誌「Progress in Oceanography」に2023年3月16日付けでオンライン版として掲載されました。

https://doi.org/10.1016/j.pocean.2023.103017

図 A:使用した電子タグ。B:釣りによるマサバの漁獲。C:釣り上げたマサバ。D:電子タグの装着風景。装着中は海水をエラに流して呼吸を補助します。E:マサバの1日サイクルの上下移動。色の濃い順にデータの50%、25―75%区間、0―100%区間を示しています。F:マサバの短時間サイクルの上下移動

図 A:使用した電子タグ。B:釣りによるマサバの漁獲。C:釣り上げたマサバ。D:電子タグの装着風景。装着中は海水をエラに流して呼吸を補助します。E:マサバの1日サイクルの上下移動。色の濃い順にデータの50%、25―75%区間、0―100%区間を示しています。F:マサバの短時間サイクルの上下移動。注:上に記した学術論文の図を改変しました。