自然蛍光光度計を用いた沖合域における光合成測定手法
[要約]
理論的には自然蛍光値から光合成量を推定することが可能なので、黒潮続流域で自然蛍光値と疑似現場法による光合成値を比較してみると、水中光量の対数を取ると光量と光合成との間に良い相関が得られた。この結果を用いると、自然蛍光光度計だけで光合成値を得ることが出来る可能性が開けた。
中央水産研究所海洋生産部物質循環研究室
連絡先 045-788-7649
推進会議 中央ブロック
専門 物質循環
対象
分類 研究
[背景・ねらい]
光合成量の測定は、該当海域の生産力を把握する上でも、炭酸ガスの循環を検討する上でも必須の把握項目であるが、専門的な知識と技術および船上で一定の培養時間を要するため、データの蓄積が少ない。自然蛍光光時計は理論的に光合成を推定できるもので、小型の取り扱いの容易な機器である。そこで、自然蛍光光度を測定することにより実際に光合成量を把握できるかどうか、検討した。
[成果の内容・特徴]
自然蛍光(Nf)は自然光(実際には太陽光に由来する水中光合成有効光量(PAR))の照射を受けた植物プランクトンが発する蛍光で、この蛍光値から光合成速度(Fc)が以下のようにして推定できる。Fc=(φc/φf)*Nf,φc:光合成量子収率,φf:クロロフィル量子収率。もし、φc/φfがわかれば、自然蛍光(Nf)から光合成速度を求めることが出来る。自然蛍光光時計は、自然蛍光に加えて深さとPARを同時に測定できる測器である。この測器を用いて黒潮続流域で1997年6月に調査を実施した。
- φc/φfはPARと良く相関した・・・上記の式から、φc/φf=Fc/Nfなので、Fcは疑似現場法で、Nfは自然蛍光光度計で求めて、5St.で得られたFc/Nfデータとこの測器により得られたPARの対数との関係を見た所、図1の様な関係が得られた。式で示すとFc=(-0.282*LOG(PAR)+0.96)*Nf、R^2=0.83
- 推定と実測の光合成速度は比較的良く一致した・・・この関係を用いて推定値と実測値を比較して図2に示した。光量の大きい上層では少ししか一致しないが、下層では良く一致した。このSt.では上層だけでなく、65m近くにも高い光合成があることが推定できた。
- 様々なSt.の光合成速度を鉛直的に連続的に把握できた・・・上記の式の関係を用いて黒潮続流域の4つのSt.の光合成速度を自然蛍光光度計を用いて図3で示すように鉛直的に連続的に明らかにすることが出来た。
[成果の活用面・留意点]
従来現場法もしくは疑似現場法という面倒な手法を用いて求めてきた光合成速度を自然蛍光光度計を上げ下ろしをするだけで求めることが出来て、さらに図2および図3に示したように、従来の方法ではいくつかの層でのみ光合成速度を把握しただけであったが、この方法では鉛直的に連続的に把握できる。しかし、上に示した式は海域や季節が異なれば、どのようになるのかが明らかでなく、また自然蛍光で求められるのは瞬間的な光合成速度であり、必要とされる日単位の光合成速度に変換する方式も明らかではないので、今後この点を明らかにすることにより、光合成測定は飛躍的に発展するものと考えられる。
[その他]
研究課題名 :黒潮域の光合成過程
予算区分 :一般別枠(太平洋漁業資源)
研究期間 :平成10年度
研究担当者名:佐々木克之、豊川雅哉
発表論文等 :
Thechangeofchlorophylla,nutrientsandphotosynthesisfromsubtropicaltotransitionregioninJunearoundKuroshioExtentionPICES第7回会合口頭発表(Abstract付き)1998.