クロロフィル色素濃度の鉛直分布の推定
[要約]
人工衛星による海色リモートセンシングでは、海面のクロロフィルa色素濃度が得られるが、海面下の分布はわからない。海面色素濃度から海面下の鉛直分布を推定するために、本州東方沖の経験的推定モデルを作成した。
遠洋水産研究所・海洋・南大洋部・高緯度域海洋研究室
[連絡先] 0543-36-6000
[部会名] 平成9年度遠洋漁業関係試験研究推進会議
[専 門] 海洋構造;物質循環
[対 象] プランクトン
[分 類] 研究
[背景・ねらい]
海洋の生産力をモニターする有効な手段として、人工衛星による海色リモートセンシングが期待されている。海色リモートセンシングでは、海面のクロロフィルa色素濃度が得られるが、海面下の分布はわからない。そのため、経験的モデルを用いて、海面の色素濃度値から海面下の鉛直分布を推定する手法が開発されつつあるが、日本周辺海域への適用例はほとんどない。 そこで本州東方海域において、必要なパラメータを求めて経験的モデルを作成した。また、これによる推定結果の妥当性を検討した。
[成果の内容・特徴]
- 本州東方で船舶により観測された過去のクロロフィル観測データを処理し、季節(春夏秋冬)と海域(黒潮・混合域・親潮)毎に、海面の濃度値と海面下の分布形状との経験的な関係式を求めた(図1)。リモートセンシングから得られる海面のクロロフィルa色素濃度値をこの関係式に適用することで、海面下の分布を経験的に推定することができる(図2)。
- 季節海域毎の特徴的な鉛直分布形状が明らかになった。
- 船舶で観測されたクロロフィル濃度値による鉛直積算量を真の値として、この経験モデルによる推定値から得られる積算量の誤差を見積もると、平均で46%であった(図3)。これは、鉛直分布が得られない他の経験的推定手法と同程度である。したがって、本手法の方が鉛直分布に関する情報が得られるという利点がある。
[成果の活用面・留意点]
- リモートセンシングデータに、ここで得られた経験式を適用することで海面下のクロロフィル色素分布を得ることができ、植物プランクトン量や基礎生産量の推定など海洋生態系の把握に必要な情報が得られる。
- 経験的モデルは、過去の平均的な状況を推定に使うものであり、特異な状況下や大きく環境が変動した場合には適用できない。今後は、理論的背景の解明が必要である。
[その他]
研究課題名:海水中の植物色素分布特性の解明
予算区分 :経常
研究期間 :平成9年度(平成5~9年度)
研究担当者:亀田卓彦、瀬川恭平、塩本明
発表論文等:Chlorophyll biomass off Sanriku estimated from OCTS data and vertical distribution model,J. of Oceanography,投稿中.