選抜育種によるアマゴのパー系統の作出
[要約]
従来の育種では,使用されていなかった早熟雄(1才で成熟する雄)を親魚に用いることで,河川残留型(パー)の出現率が高い系統を品種固定できる可能性が示唆された。
岐阜県淡水魚研究所・試験研究部
[連絡先]0576-52-3111
[推進会議]水産養殖
[専門]水産遺伝育種
[対象]他の淡水魚
[分類]研究
[背景・ねらい]
アマゴはふ化後1年目の晩秋に,パー(河川残留型)とスモルト(降海型)に相分化する。現在,岐阜県で養殖されているアマゴは降海型が高率で出現し,河川残留型の出現率が低い状況にある。このため,これらアマゴを河川に放流した際に,降海率が高く,期待した放流効果が得られないという意見が,河川上流部の漁業協同組合から上がっている。 当所では河川残留型を作るため,パーの継代を重ねてきたが,この方法では成長不良個体が多く,系統として有用なものを作出することができなかった。そこで,従来の育種では排除されていた早熟雄を親魚に利用することにより,パー系統の作出を試みた。
[成果の内容・特徴]
- スモルト化率の低いアマゴを使い,試験区として親魚の組み合わせを4区[パー雌×早熟雄(PDP区),パー雌×パー雄(PP区),スモルト雌×早熟雄(SDP区),スモルト雌×スモルト雄(SS区)]を設定し,子供の相分化状況と各相の体重別出現率を調査した結果,早熟雄を用いた区がいずれもパーの出現率が高く,また,スモルトの出現率が低い結果となった(図1)。
- パーの最大体重も早熟雄を使用した区において,大きい結果となった(図2)。
- パー雌×早熟雄の組み合わせは,パー雌×パー雄の組み合わせより大型パーが高率で出現することから,パー系統作出においては有用であると考えられる。
[成果の活用面・留意点]
活用面;
- 河川上流域でのアマゴ資源の安定した増殖が図られる。
- アマゴはスモルトよりもパーの方が食用魚としての商品価値が高い。
留意点;
- 継続してパー系統の作出・品種固定化を行う必要がある。
- 交配においてパーとともに高率で出現する早熟雄は,食用魚としての商品価値は低い。
- 河川に大量放流した場合,降海型であるサツキマスに遺伝的影響を与える危険性がある。
[その他]
委託先:独立行政法人水産総合研究センター養殖研究所
「水産生物育種の効率化基礎技術の開発研究」
研究課題名:アマゴのスモルト系統及びパー系統作出技術の開発
予算区分:国補(10月10日)
研究期間:平成13年度(平成9~14年度)
研究担当者:徳原 哲也
発表論文等:
アマゴの育種に関する研究-VI, 岐阜県水産試験場研究報告, 45号, 2000
アマゴの育種に関する研究-VII, 岐阜県淡水魚研究所報告, 46号, 2001