環境ホルモンはマダイの繁殖に影響を与えるか!?
[要約]
環境ホルモンは生殖腺刺激ホルモン放出ホルモンや生殖腺刺激ホルモンの遺伝子発現には影響を与えないものの,それらの分泌や生殖腺での雄性ホルモンの生成を抑制することにより,雄マダイの精子形成を阻害することを明らかにした。
養殖研究所繁殖部繁殖生理研究室
[連絡先]0599-66-1830
[推進会議]水産養殖
[専門]魚介類繁殖
[対象]魚類
[分類]研究
[背景・ねらい]
内分泌かく乱物質(環境ホルモン)が魚介類の繁殖機能に影響を及ぼしており,将来,魚介類の生産性の低下を引き起こすことが懸念されている。しかし,内分泌かく乱物質が増養殖対象種の繁殖に影響を与える可能性やその作用機構についての研究はなされていない。本研究では,マダイ雄の精子形成に及ぼす内分泌かく乱物質の影響を分子レベルで明らかにすることを目的として,エストラジオール-17βが雄マダイの内分泌機構に及ぼす影響について検討した。
[成果の内容・特徴]
- 環境ホルモンの一種であるエストラジオール-17βを投与された雄マダイは,対照群と比較して生殖腺体指数が低く,組織学的な観察結果から,精子形成が抑制されていることが明らかとなった(図1)。
- 精子形成を制御しているホルモン分子のうち,生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH,図2A)および生殖腺刺激ホルモン(GTH,図2B)の遺伝子発現量を測定したところ,環境ホルモンの投与によりそれらの生成は影響を受けないことが判明した。
- 魚類の雄性ホルモンと考えられている11-ケトテストステロン(11-KT)は環境ホルモンの投与により低下し,処理開始前と同様に低い値を示すことが明らかとなった(図2C)。
- これらの結果から,エストラジオール-17βは精子形成に重要な働きをするGnRHやGTHの生成は抑制しないものの,それらの分泌もしくは精巣での雄性ホルモンの生成を抑制した結果,精子形成を阻害するものと推測された。
[成果の活用面・留意点]
本研究の結果,環境ホルモンはマダイ以外の海産増養殖魚の精子形成にも影響を及ぼす可能性が考えられる。しかし,今後環境水中に存在する量の環境ホルモンで精子形成に影響があるかどうかを検討する必要がある。
[その他]
研究課題名:マダイの生殖内分泌機構に及ぼす内分泌かく乱物質の影響の解明
予算区分:総合研究(環境ホルモン)
研究期間:平成13年度(平成11~14年度)
研究担当者:香川浩彦・奥澤公一・玄 浩一郎
発表論文等:1) Gen, K., Okuzawa, K., Senthilkumaran, B., Tanaka, H., Moriyama, S., and Kagawa, H. (2000) Unique expression of gonadotropin-I and -II subunit genes in male and female red seabream (Pagrus major) during sexual maturation. Biol. Reprod., 63, 308-319.
2)山口園子・玄浩一郎・奥澤公一・松山倫也・香川浩彦(2001) マダイ雄のGTH遺 伝子の発現に及ぼすステロイドホルモンの影響. 平成13年度日本水産学会春季大 会講要, p.62. 3) Yamaguchi, S., Gen, K., Okuzawa, K., Matsuyama, M., and Kagawa, H. (2001) Effects of gonadal steroids on gonadotropin gene expression in male red seabream (Pagrus major). Abstract of International Commemorative Symposium, 70th Anniversary of The Japanese Society of Fisheries Science, p. 219.(ベストポスター賞受賞)