珪藻類キートセロス2種の高水温耐性株の選抜とアコヤガイ稚貝に対する餌料価値
[要約]
キートセロス類2種を寒天培地で培養し,30℃の高温条件下で約30回の選抜を繰り返すことにより,増殖が困難であった30~35℃の条件下でも増殖する高水温耐性株を得た。本特性は低温保存しても維持され,餌料価値も高いと評価された。
養殖研究所・遺伝育種部・育種研究室
[連絡先]0599-66-1830
[推進会議]水産養殖
[専門]水産遺伝育種
[対象]他の藻類
[分類]普及
[背景・ねらい]
二枚貝類やナマコなど海産介類の幼生用餌料として広く生産されている珪藻類キートセロスは,通常,約20℃に調温された室内で強度の光を照射しながら大量培養されている。そのため生産に要する費用と労力は多大である。とりわけ給餌要求量が増える高水温期に,経済的で安定した培養を省力的に行うためには,夏季に30~35℃の条件となる屋外でも増殖する高水温耐性株を得る必要がある。そこで,単細胞性キートセロス類Chaetoceros gracilisとCh. ceratosporumが寒天培地上でコロニーを形成し易い特性を持つことに着目し,寒天培地から選んだコロニーを液体培地で増殖させる培養を30℃条件下で反復することにより,高水温耐性株を作出し,周年,屋外での生産を可能とすることをねらいとした。
[成果の内容・特徴]
- Ch. gracilis及びCh. ceratosporumともに30℃の寒天培地上で増殖したコロニーを30回以上選抜することにより,増殖最適水温は約5℃上昇し,30~35℃で増殖するようになった(図1)。一方,20℃で選抜した場合(対照区),増殖最適水温は25℃(図2)であり,差が認められた。(*は25℃での増殖との差が有意であることを示す。)
- 選抜株を低水温・低照度条件下で1年間保存しても,その増殖特性は保持された。
- Ch. gracilis選抜株は,接種時から約14日で最高増殖密度に達し,その後21日目までほぼ細胞密度の減少は見られず定常期は長かった。一方,Ch. ceratosporumは最高増殖密度に達した後の定常期はCh. gracilisと比較して短いことがわかった。
- 選抜したCh.gracilisを夏季に屋外で大量培養したところ,培養水温が37℃まで上昇したにも関わらず良好に増殖した。このことから生産規模での培養が可能であることが確認できた(図3)。
- 選抜したCh. gracilisに形態的変化は見られず(図4),アコヤガイ付着稚貝に給餌したところ,従来から好適餌料として利用されてきた微細藻類と同等の餌料価値を持つことが確認できた。
[成果の活用面・留意点]
選抜されたキートセロス類は,二枚貝類幼生及び母貝の成育が旺盛な夏季に利用できる餌料として,我が国の広範な地域の他,東南アジアでも利用されている。また,温度を低く保つ必要がないため,発生学などの実験動物(例えばウニやヒトデ)の餌料として大学など研究機関でも利用されている。
[具体的データ]
図3 夏季に屋外で培養したCh.gracilis選抜株
図4 Ch.gracilis選抜株の形態
[その他]
研究課題名:複数有用形質を持つ微細藻類株の選抜育種法の開発
予算区分:経常研究
研究期間:平成13年度(平成13~17年度)
研究担当者:岡内正典
発表論文等:魚介類の餌料として利用される微細藻類と動物プランクトンの長期保存,低温生物工学会誌,46巻・1号,43~50,2000.