国立研究開発法人 水産研究・教育機構

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海産魚の病原細菌をやっつけるユニークな形態のファージ

公表日 2019年11月30日

 

研究実施者:水産技術研究所 養殖部門 病理部 診断グループ 河東康彦ほか

 マダイ等の養殖魚で発生する滑走細菌症の病原体を殺すファージを発見しました。ファージは細菌に感染するウイルスの総称ですが、発見したファージの頭部は毛が生えているようなユニークな構造で、病原体に近づくための役割を担っているのではないかと考えています。

 マダイやヒラメ等の養殖魚は、滑走細菌症と呼ばれる感染症の被害を受けることがあります。一般的に細菌感染症では抗菌剤による治療が知られていますが、近年、様々な薬剤耐性菌の出現が世界的に問題視されています。そこで、抗菌剤の代わりとなる治療法として、菌を殺すウイルスであるバクテリオファージ(以下ファージ)に着目しました。本研究では、滑走細菌症をコントロールすることを目指し、原因細菌(Tenacibaculum maritimum)を溶菌するファージを探索しました。


 海水中のファージを収集するために、マダイ養殖場の海水を孔径0.45 µmフィルターでろ過して雑菌を排除し、そこに菌の栄養となる培地と、ファージの餌となる細菌T. maritimumを添加して培養しました。その結果、2種類のT. maritimum溶菌ファージ(PTm1、PTm5)を分離することに成功しました。これら2種類のファージの形態を電子顕微鏡で詳細に観察したところ、2種類とも頭部に毛のようなユニークな構造物を持っていることが分かりました。さらに、これらのファージがT. maritimumに感染する様子を継時的に観察すると、最初に頭部の毛のような構造物が菌体に付着し、その後、自身のDNAを尾部から菌体内に打ち込んでいることが推測される電子顕微鏡像が見られました。これら頭部の毛のような構造物は、T. maritimumに近づくための触手の様な役割を担っている可能性があります。さらに、遺伝学的な特性を明らかにするためにゲノム解析を行ったところ、2種類のファージは共に新規の種類であることが分かりました。


 今後、これらの収集したファージについて、滑走細菌症の治療における有用性を調べていく予定です。


 本研究は、農林水産省技術会議委託プロジェクト研究「海洋微生物解析による沿岸漁業被害の予測・抑制技術の開発」により実施しました。

 本成果は、Archives of Virology 2020 Feb;165(2):303-311. doi: 10.1007/s00705-019-04485-6.に掲載されました。

図

T.maritimum溶菌ファージ(PTm1, PTm5)の電子顕微鏡写真。
矢尻は頭部に確認された毛のような構造物。 右下のバーは長さが100 nm。