定量核磁気共鳴法と質量分析法を組み合わせたテトロドトキシン類の濃度決定法の開発
公表日:2019 年 10 月 24 日
研究実施者:水産技術研究所 環境・応用部門 水産物応用開発部 渡邊龍一ほか
フグ中毒の原因毒であるテトロドトキシン(TTX)は、近年、ニュージーランドやヨーロッパ産の食用二枚貝から検出され、貝毒検査対象にこの毒を含める必要性が国際的に議論されるなど、新たな注目が集まっています。本研究では市販のTTX試薬を使って、定量核磁気共鳴法(qNMR)による正確な濃度決定法を開発しました。また、質量分析法(MS)と組み合わせることにより、極めて微量なTTX主要類縁体の正確な定量が可能になりました(図1)。
本研究で用いたqNMR法という手法は国際単位系(SI)に紐づけすることができ、なおかつ非破壊測定法であり、正確な濃度決定を可能とする手法として、製薬、食品、工業など幅広い分野で注目を浴びています。この手法により、認証標準物質と呼ばれる極めて正確に濃度決定された標準物質を製造することができます。認証標準物質は、検査の最も川上に位置づけられる国の標準物質です。一般的なqNMR測定では、(1)定量基準物質を測定対象物質に添加するため、測定対象物質を汚染させてしまう、(2)測定感度が比較的悪いため、極めて微量の化合物には適用できない、などの難点がありました。
本研究では、Pulse-length concentration determination (PULCON)という、外部標準によるqNMRを用いました。この手法の良いところは、海洋生物毒のように微量しか得られない成分を定量する際に、試料を定量基準物質で汚染することなく、貴重な試料を定量できることです。TTXは溶液中で類縁体を含め最大4成分(TTX hemilactal form, TTX lactone form, 4,9-anhydroTTX, 4-epiTTX)に変換します。この中でTTXとして強い毒性を発現するのは、TTX hemilactal formと TTX lactone formです。混合物の状態で、TTXとして規制される2種類のTTXのみを正確に定量できるシグナルを、化学変換法や各種二次元測定法を利用して見出しました。従来の手法では、溶液の状態で規制対象となるTTXのみを正確に定量することは困難でした。しかし,本研究により、TTXの認証標準物質を容易に調製することができるようになりました。また、TTXから変換した成分である4,9-anhydroTTXや4-epiTTXについては化学的に不安定なため、認証標準物質の開発は困難です。そこで、qNMRとMSを組み合わせて、TTXを基準として、これら類縁体を正確に定量できる手法を考案しました。この手法は、海洋生物毒にとどまらず、微量類縁体の正確な定量法として、製薬、試薬工業などで広く応用される可能性がある先駆的な技術開発と考えています。
本研究は、厚生労働科学研究費「テトロドトキシンのリスク管理のための研究」によって実施されました。
本成果は、J.Agric.Food Chem. 2019, 67, 12911-12917に掲載されました。