国立研究開発法人 水産研究・教育機構

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クロダイの鼻孔隔壁欠損症について

[要約]
 クロダイにおいて鼻孔隔皮欠損症が生ずるか否かを検討した。天然稚魚,人工採苗稚魚3群について観察した結果,人工採苗稚魚1群のみに本欠損症が認められた。クロダイにおいて本欠損症観察されたのは初めてである。


瀬戸内海区水産研究所 海区水産業研究部 資源培養研究室
[連絡先] 0829-55-0666
[推進会議]  瀬戸内海ブロック水産業関係研究試験推進会議
[専門] 魚介藻生理
[対象] 魚類
[分類] 研究


[背景・ねらい]
 鼻孔隔皮欠損症は,前鼻孔と後鼻孔の間の隔皮が欠如し両鼻孔が連続する異常症例で,人工採苗マダイにおいて初めて報告された。人工採苗マダイでは本欠損症がしばしば高率でおこることおよび成長してもほとんど変化しないことから,種苗放流の際の自然標識として多く用いられている。しかし,クロダイに関してはこれまで全く知見がないため,本種において鼻孔隔皮欠損症が生じているか否かを検討した。


[成果の内容・特徴] 

  1. 天然クロダイ稚魚100個体(全長21.5~36.0mm)の鼻孔を観察した結果,鼻孔隔皮欠損症は全く認められず,すべてが正常な鼻孔を有していた(表1)。
  2. 瀬戸内海区水産研究所で飼育した129個体(全長30.0~53.0mm)について観察したところ,片側の後鼻孔が欠如したものが1個体認められたが,他の128個体は正常な鼻孔を有していた(表2)。シリーズ標本について観察したところ,全長9mm頃までに鼻孔隔皮が形成され,前・後鼻孔に分かれた。
  3. 種苗生産機関Aで生産された64個体(全長11.3~15.2mm)を観察したところ,すべてが正常な鼻孔を有していた(表3)。
  4. 種苗生産機関Bで生産された100個体(全長17.0~32.5mm)を観察したところ,24個体に欠損症が認められた(図1,表4)。両側の欠損症は6個体と少なく,片側の欠損症が18個体と多い特徴があった。
  5. 人工採苗マダイ30個体について調べたところ,全てが欠損症であり,そのうち25個体が両側の欠損症であった。
  6. 以上のように人工採苗クロダイ3群のうち1群のみに欠損症が認められ,しかも片側の欠損症が多く,マダイに比べて欠損症の発生率はかなり低いものと考えられる。
  7. 従って,人工採苗クロダイの本欠損症は,種苗放流の際の自然標識としての利用価値はマダイに比べて劣っているものと考えられる。


[成果の活用面・留意点]
 本成果によって,クロダイにおいて鼻孔隔皮欠損症が生ずることが初めて明らかとなった。今後,クロダイだけでなくマダイ等についても本欠損症の生じる原因の究明と防除の研究を行う必要がある。


[具体的データ]

観察個体 全長(mm) 正常個体数 鼻孔隔皮欠損個体数
100 21.5~36.0 100(100%) 片側欠損 0(0%)
両側欠損 0(0%)
全欠損個体 0(0%)

表1 天然クロダイ稚魚(2000年7月採集)の鼻孔観察結果

観察個体 全長(mm) 正常個体数 鼻孔隔皮欠損個体数
129 30.0~53.0 128(99.2%) 片側欠損 0(0%)
両側欠損 0(0%)
全欠損個体 0(0%)
後鼻孔欠損 1(0.8%)

表2 瀬戸内海区水産研究所で生産したクロダイ(1999年)の鼻孔観察結果

観察個体 全長(mm) 正常個体数 鼻孔隔皮欠損個体数
64 11.3~15.2 64(100%) 片側欠損 0(0%)
両側欠損 0(0%)
全欠損個体 0(0%)

表3 Aセンターで生産したクロダイ(1999年)の鼻孔観察結果

観察個体 全長(mm) 正常個体数 鼻孔隔皮欠損個体数
100 17.0~32.5 76(76%) 片側欠損 18(18%)
両側欠損 6(6%)
全欠損個体 24(24%)

表4 Bセンターで生産したクロダイ(2000年)の鼻孔観察結果

 

図1
図1 上:クロダイの正常な鼻孔
   下:クロダイの鼻孔隔皮欠損症の1例


[その他]
研究課題名:形態形成からみた種苗の放流方法の開発
予算区分 :経常研究
研究期間 :平成10~12年度
研究担当者:松岡正信
発表論文等:
 松岡正信.クロダイに鼻孔隔皮欠損症は生ずるか?.第2回瀬戸内海魚類研究会報告,53-54(2000)
 松岡正信.クロダイの鼻孔隔皮欠損症について.水産増殖(印刷中)
 松岡正信.天然マダイ仔稚魚の鼻孔隔皮形成過程.日本水産学会誌(投稿中)