国立研究開発法人 水産研究・教育機構

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マコンブの群落変動予測と藻場回復の試み

[要約]
 水温とマコンブ生育密度の関係の検討から,その発生に水温が特に影響する季節があることが確かめられた.植食性水産動物や多年生海藻群落によってマコンブが生育しにくい場では,それら要因を除くことによってマコンブ群落を回復できることを示した.


青森県水産増殖センター・磯根資源部
[連絡先]017-755-2155
[推進会議]東北ブロック水産業関係研究試験推進会議
[専門]増養殖技術
[対象]こんぶ
[分類]研究


[背景・ねらい]
 下北半島地先では,マコンブが藻場を形成し,コンブ漁場やウニ,アワビ類の餌料として漁業生産上重要な役割を果たしている.しかし,時に「磯焼け」と呼ばれる群落の衰退がみられる.そこで,群落の変動予測を目的に水温と発生量の関係を,衰退した群落の回復を目的に植食性水産動物や生育場が競合する海藻の除去方途を検討した.


[成果の内容・特徴]

  1. 1982年-1999年の各々6月に,尻屋地先水深2.5m-20mにある60地点前後を潜水して求めたマコンブ生育密度と,泊地先の水温変化との関係を調べた結果,1月第5半旬及び3月第3半旬前後の水温と,その年の1年目マコンブの生育密度には有意な負の相関を認められ、その発生に水温が特に大きく影響する季節があることが分かった.その時期の水温変化からマコンブ発生の多寡を予測できる可能性が推察された.(図1)
  2. 佐井地先のキタムラサキウニが高密度で直立海藻が殆ど生育しない,いわゆる「サンゴモ平原」において,1994年9月に150m×80mの範囲から82,000個のキタムラサキウニを採取した結果,翌年2月には1061個体/平方メートルのマコンブが発生し,2年後の 7月には10.1キログラム/平方メートルの生育量を示した.試験場所周辺にあってそれを除去しない場では,「サンゴモ平原」が維持されたことから,その摂餌がマコンブ群落の形成に影響することが確かめられた.(図2)
  3. 佐井地先で1994年-1999年の各年にキタムラサキウニが除去された広さ1.2ha-3.3haの場を, 2000年8月に観察した結果,各々除去場所の41.7%, 27.7%, 0%, 34.0%, 77.7%, 72.0%の範囲にマコンブ群落が認められた.除去後6年を経た場で群落が維持された反面,底質が複雑な場ではキタムラサキウニの蝟集に伴う群落の消失が認められた.従って,除去場の選定にあたっては底質を留意すべきと考えられた.
  4. 大間崎地先では,かつてコンブ漁場とされていた場にツルアラメ群落が形成されている.1995年-1997年の各年10,11月及び1997年12月-3月の各月に,ツルアラメ群落の1m-5m四方を除去して得た裸地面を,1998年-1999年に観察した結果,各年に除去した場にはいずれもマコンブやワカメ群落が形成された.また,12月以前にそれを除去した場にはマコンブが生育したのに対して,1月以降のものにはジョロモクがよく発生した.これから,ツルアラメ群落を除去することにより,寿命の短いコンブ目植物群落に回復できることが確かめられ,さらに,除去時期によってその後の植生を管理できる可能性が推察された.(図3)
  5. 1998年11月に大間崎地先のツルアラメ群落中に放流した600個体のキタムラサキウニは,1999年4月に生殖腺指数が14.8%となり,その摂餌によって形成された34平方メートルの裸地面にはマコンブが認められた. 2000年7月には,それが2年目藻体となって4個体/平方メートルの密度で生育した.試験場所周辺ではツルアラメ群落が卓越し続けたことから,キタムラサキウニを用いてツルアラメ群落を除去し,コンブ漁場に回復できると考えられた.

[成果の活用面・留意点]
漁業者によるコンブ漁場管理に供する.


[具体的データ]

図1


図1 泊沿岸の1月第5半旬の水温(A),3月第3半旬の水温(B)とその年の6月における尻屋沿岸の1年目マコンブ生育密度との関係.

 

図2


図2 佐井地先におけるキタムラサキウニを除去した試験区(○)と除去しなかった周辺漁場(×)でのマコンブ生育密度の変化.矢印はキタムラサキウニ除去時期を表す.

 

図3


図3 1997年11月-1998年3月の各月に大間崎地先のツルアラメ群落除去場に生育したコンブ目植物,ヒバマタ目植物の1999年7月における生育密度.


[その他]
研究課題名:藻場の変動要因の解明に関する研究
予算区分 :水産業関係特定研究開発促進事業
研究期間 :平成12年(平成7年度から11年度)
研究担当者:桐原慎二,三戸芳典,吉田雅範,蝦名 浩,藤川義一,高橋進吾,仲村俊毅
発表論文等:藻場の変動要因の解明に関する研究統括報告書(平成7年度から11年度)