国立研究開発法人 水産研究・教育機構

お問い合わせ

青森県太平洋沖合海域における水温の季節・経年変動特性

[要約]

 この海域では、季節変動では津軽暖流域の特徴を示す全体変動や親潮域の配置の特徴を示す主成分がみいだされた。経年変動の主成分分析の結果からは、全体変動は親潮の変動の影響が大きく、津軽暖流や沖合の暖水の影響も大きいことが明らかになった。スペクトル解析の結果では、津軽暖流の予測の可能性が最も大きいことがわかり、親潮についてもその予測を検討することが有効であると思われた。


青森県水産試験場・漁場環境部
[連絡先]0173-72-2171
[推進会議]東北ブロック水産業関係研究試験推進会議
[専門]海洋構造
[対象]海洋変動
[分類]研究


[背景・ねらい]
 水温の季節変動は海面での熱交換のみによるのではなく、津軽暖流、親潮、黒潮系暖水等の水塊配置の変化によっても引き起こされる。したがって、これらによって引き起こされる水温の季節変動パターンやその要因を明らかにし、また、経年変動パターンを明らかにすることを目的として解析を行った。


[成果の内容・特徴]

  1. クラスター分析の結果では、

   1)尻屋から出戸にかけての距岸60マイルまでの海域で津軽暖流の影響の及ぶ海域、
   2)尻屋線の東経143度30分から144度30分の海域、
   3)尻屋線の142度50分から143度30分及び鮫角線の142度10分から144度30分で親潮第1分枝の影響を受ける海域及び
   4)鮫角沖の最も沿岸の点の4つに分類された。

  1. 季節変動の主成分分析の結果では、全体変動が第1主成分としてみいだされた。その時間変動は3月に水温が最低、10月に最高となり、津軽暖流域の特徴を示していた。第2主成分では主に津軽暖流域とその他の海域に分けられた。主成分スコアは12月に最高、8月に最低となった。第3主成分は142度30分から144度にかけての海域とそれ以外の海域に分けられた。
  2. 経年変動の主成分分析によって得られた第1主成分は全体変動を表していた。値は沖合側の南側を中心に高くなっていた。この領域は親潮による変動の影響が大きい海域で、第2主成分は津軽暖流による変動の影響が大きい海域と考えられた。第3主成分では、沿岸部は津軽暖流水、沖合は暖水塊の影響を示すものと考えられた。
  3. 事例解析の結果、経年変動の第1主成分の特徴は、正の時期は全体に水温が高く,津軽暖流の張り出しと沖側の暖水が連接するパターンがみられた。負の時期は親潮域で広く低水温が分布していた。第2主成分の特徴は親潮第1分枝の分布域がその他の海域に対して低水温のときにその値が高くなる傾向を示していた。第3主成分は、津軽暖流と沖合の暖水塊が連接せず、その間に冷水が分布しているときにはその値が高くなると思われた。
  4. スペクトル解析の結果、第1主成分では偏差の大きさが持続する期間として有意なのは4カ月までで、偏差の符号が変わらないのは12カ月間、周期性は2.7、5.3、8年付近にみられた。同様に第2主成分では有意なのは6カ月までで、偏差の符号が変わらないのは11カ月間、周期性は13.9、15、21.7年付近であった。第3主成分では有意なのは2カ月までで、偏差の符号が変わらないのは4カ月間、周期性は不明瞭で、2.2年または20~22年付近にみられた。周期性をみると、第1主成分では8~8.5年、第2主成分では14年、第3主成分では2年または20~22年であった。

[成果の活用面・留意点]

  1. スペクトル解析の結果では、偏差の大きさの持続期間や偏差の符号が変わらない期間から、第2主成分(津軽暖流)の予測の可能性が最も大きいことがわかった。親潮についてもその予測の可能性はあるが、現在の観測定線では親潮を捉えるには無理があると思われる。
  2. クラスター解析を用いた類似年については、各月において類似年を抽出することができた。しかし、この方法による次の月の予測は的中率の高いものではなかった。また、主成分を用いた水温予測では、春季や冬季の予測誤差は比較的小さかったが、夏場の予測には水温変動が大きく、予測に使うのはむずかしいと考えられた。これらの原因としては、過去のデータが多い月と少ない月のアンバランスがあり、今後は、さらに欠測のないデータの蓄積を続けていくことが不可欠であると考えられた。

[具体的データ]

図1
図1 定地水温1ケ所と沿岸定線100m深水温の平年偏差を用いた主成分分析によって得られた第1主成分

 

表1 経年変動解析に用いた定地水温及び沿岸定線100m深水温の観測点及び期間

Station Latitude Longiture Start Month End Month Depth(m)
八戸 40.55 141.55 1964.05 2000.12 0
SY1 41.43 141.58 1964.05 2000.12 100
SY2 41.43 141.67 1964.05 2000.12 100
SY3 41.43 142.00 1964.05 2000.12 100
SY4 41.43 142.33 1964.05 2000.12 100
SY5 41.43 142.67 1964.05 2000.12 100
SY6 41.43 143.00 1964.05 2000.12 100
SY7 41.43 143.33 1964.05 2000.12 100
SY8 41.43 143.67 1964.05 2000.12 100
SY9 41.43 144.00 1964.05 2000.12 100
SY10 41.43 144.33 1964.05 2000.12 100
DD2 41.00 141.75 1964.05 2000.12 100
DD3 41.00 142.00 1964.05 2000.12 100
DD4 41.00 142.33 1964.05 2000.12 100
DD5 41.00 142.67 1964.05 2000.12 100
DD6 41.00 143.00 1964.05 2000.12 100
SK3 40.53 142.00 1964.05 2000.12 100
SK4 40.53 142.33 1964.05 2000.12 100
SK5 40.53 142.67 1964.05 2000.12 100
SK6 40.53 143.00 1964.05 2000.12 100
SK7 40.53 143.33 1964.05 2000.12 100
SK8 40.53 143.67 1964.05 2000.12 100
SK9 40.53 144.00 1964.05 2000.12 100


[その他]
研究課題名:資源管理体制強化施推進事業
予算区分:国庫1月2日
研究期間:平成9~12年度
研究担当者:佐藤晋一
発表論文等:青森県水産試験場研究報告 第2号、(印刷中)、2002.