国立研究開発法人 水産研究・教育機構

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コイヘルペスウイルス病情報

コイヘルペスウイルス病に関する基礎知識

コイヘルペスウイルス病(KHV病)とは

 コイヘルペスウイルス(KHV)がコイに感染することによって発症する病気で,強い感染力を持ちます。ひとつの水系の上流で発生すると,次々と下流のコイに感染して大量死を起こします。農水省では2004年度から水産総合研究センターを中心とするプロジェクト研究「コイヘルペスウイルス病の診断・防疫技術の開発」を立ち上げ,被害軽減のための研究開発を行っています。

KHV病にかかる魚は

 これまでの研究からKHVはコイ以外の魚種には感染しないことがわかっています。もちろんヒトには感染しません。また,経験的にニシキゴイの方が普通の黒ゴイよりKHVに弱いといわれています。

KHVとは

 ヘルペスウイルスの一種と考えられており,ウイルスですから当然抗菌剤は効きません。なお,コイのウイルス病には本病以外に,「コイのウイルス性乳頭腫」(やはりヘルペスウイルスの仲間のCHVで20℃以下の低水温で発症し,体表にできものができる。)や,わが国では未確認の「コイの春ウイルス血症(SVC)」(ラブドウイルスの一種によっておこる。)などがあります。

KHVの消毒は

 環境中に放出されたKHV自体は次亜塩素酸(添加後の有効塩素濃度が3mg/L程度)やヨード剤,アルコールなど通常の消毒剤で簡単に死滅し,水温50℃では1分で死滅します。また,KHVは水温15℃以上の通常の河川水や湖水中では水中のバクテリアによって3日程度で死滅することがわかっています。したがって,池などを消毒する場合,コイをすべて取り上げ止水にして1週間程度放置し,その後塩素消毒を行えば十分な消毒効果が期待されます。

KHVはどこから来たのか

 知られている限りでは,1996年のイギリスの病魚の標本から確認されたのが世界的にも一番古い例ですが,これまでの分子遺伝学的研究によると, 日本も含めたアジアのKHVはヨーロッパやアメリカのものとは遺伝子型が異なるため,アジアのKHVが欧米の国々から伝播したとは考えにくく,アジアや日本のKHVがどこから来たのかは未だに不明です。アジアでは2002年にインドネシアでKHVによるコイの大量死が起こったのが公式には初めての発症例ですが,アジアのどの国から日本に侵入したのかも不明です。

どのように診断するか

 KHV病の外観症状として, 眼の落ちくぼみや,エラぐされなどがみられることもありますが,症状がはっきりと出ずに死んでいくこともあります。確定診断は PCRと呼ばれる方法でウイルスの遺伝子を検出することによって行いますが,現在,PCR法の改良やより簡単で高感度な診断法の開発が行われています。

なぜ全国各地に広がったのか

 KHVは20 ~25℃で最も発症しやすく,初夏と秋に発生のピークが見られます。2003年秋に霞ヶ浦で大量死を起こした後, 2004年初夏には,前年秋に霞ヶ浦から養殖や放流のために購入されたコイが水温上昇とともにいっせいにKHV病を発症したため,全国各地でコイの大量死が起こりました。KHV病は当初は食用ゴイの売買や,河川への放流などにより広がりましたが,現在では,一般の方々が病気のコイを知らずに購入したり,病気になったコイを公共の池や河川に投棄するために発生する例が多くなっているようです。

KHV病は治るのか?

 KHVに感染してもすべてのコイが死ぬわけではありません。ウイルスの量や水温によってはほとんど死なないこともあります。また, KHV病を発症したコイを手遅れにならないうちに30℃に水温を上げて一週間以上飼育すれば治癒できることが明らかになってきました。このようなコイは KHVに対する免疫を持ち,次にウイルスに暴露されても発症しにくくなります。ただし,感染初期で症状の出ていないコイを高水温に移して飼育しても,このコイを再び 20~25℃の水温に戻したとき,発症することがあります。これは病気の症状が出ない程度の軽い感染ではコイに十分な免疫ができなかったためと考えられます。
 水温変化が無くても,自然に病気の症状が消え,見た目に健康になることがありますが,これらの個体の一部は完全に治癒せず,他のコイに病気を移す可能性があります。
 一方,水温を下げてもKHV病の発症を抑制できますが,この場合は再び水温が上昇すると高い割合で病気が発生します。

また大量死が起きるのか?

 これまでの研究により,一度KHVの大発生が起こった水域で生き残ったコイは高率でKHVに対する免疫を持っていることがわかってきました。実際に,一度KHVによる大量死が起きた場所で,これまで2度目の大量死が起きたケースは報告されておらず,そのような場所ではこれからも大量死は起きないと思われます。しかし,このような場所のコイのなかには,低レベルで感染が持続しているコイがいることが報告されており,一度大量死が起きた場所のコイは,たとえ見た目に健康でも,ウイルスを持っている可能性があります。 KHVが未侵入の水域では,いったんKHVが入り込めば大量死が起こる可能性がありますので,コイの移動には細心の注意が必要です。

あなたのコイをKHVから守るために

  1. 池や川で捕まえたコイを他に持ち運ぶのは極力やめましょう。過去にKHVが発生したことがわかっている場所のコイはウイルスを持っている可能性が高いので特に気をつけることが必要です。
  2. 水温の低いときにコイを買ったり移動したりするのはやめましょう。KHVを持っていても水温が低いと発症しないため,知らずにウイルスを持ち込む可能性があります。 20℃以上の水温で健康に泳いでいるコイを選んでください。すなわち,冬から春にコイを購入するのは危険です。
  3. インターネットなどでコイを買うのはおすすめできません。どんなコイか,どのような状況で飼育されていたのか全くわからないからです。実際にインターネットでコイを買ってKHVを持ち込む例が報告されています。コイを購入するときは信頼できる業者のところで自分の目で見て選んでください。
  4. 新たにコイを持ち込むときは,自分で検疫をしましょう。つまり,新しいコイをすぐに他のコイと一緒にせず,別の池や水槽(排水も自分が元から飼っているコイのところに流れ込まない場所)で 20℃以上(できれば20~25℃の範囲)で2週間以上飼育し,健康なのを確かめることをお勧めします。このとき,KHVの感染歴が無いのが明らかな,捨ててもよいコイ(できれば色ゴイ)を一緒にして,それらが発症しないことを確かめれば理想的です。