まぐろ類の資源変動と大気/海洋長周期変動
遠洋水産研究所 海洋・南大洋部 低緯度域海洋研究室
[連絡先]0543-36-6064
[推進会議]遠洋漁業試験研究
[専門]海洋構造
[研究対象]まぐろ
[分類]研究
[ねらい・目的と成果の特徴]
- まぐろ類資源の変動機構解明のための基礎研究として、大気/海洋の長周期変動とまぐろ類の資源変動との関連性を検討した。大気/海洋変動の急激な変化であるレジーム・シフトは、近年では1970年代後半、80年代末、90年代末の3回生じたとされ、プランクトン、小型浮魚類、底魚類、大型浮魚類資源の変動が報告されている。本研究では、まぐろ類の資源変動を、大気/海洋のレジーム・シフトに注目して検討した。
- 大気/海洋のレジーム・シフトのうち、70年代後半は北半球の大気/海洋変動指数に認められ、80年代末は北太平洋北部を中心とし、90年代は北太平洋北部および熱帯太平洋を中心とする指数に現れている(図1)。
- 太平洋クロマグロ、北太平洋ビンナガ、ミナミマグロ資源は70年代後半を境に減少、東部太平洋のメバチ、キハダ資源は増大した(図2)。80年代末を境に、メバチのCPUEは減少し、ビンナガは増大した。
- 各魚種の資源変動と大気/海洋変動指数との相関関係を検討した結果、温帯性まぐろ類はアリューシャン低気圧の強弱に関連するNPI等、変動の中心が北太平洋の北部域にある大気/海洋変動指数と相関が高く、熱帯性まぐろ類は南方振動指数(SOI)等、熱帯域を中心とする大気/海洋変動と有意な相関関係にあった(図3)。
- 温帯性まぐろ類では、海面水温が、産卵場では冬に低温、夏に高温、越冬場では冬に高温な年に加入量が高まり(クロマグロのみ図4に例示)、熱帯性まぐろ類では産卵場・生育場の水温が高いほど加入量が高まる関係が認められた。
- 以上のように、大気/海洋変動とまぐろ類の資源変動に統計的な相関関係を見出すことができた。このことから、(1)産卵海域の海面水温変動が仔稚魚の生残(成長速度や海域の餌料生物生産)に影響を及ぼす結果、加入量の変動をもたらす、(2)越冬場の海面水温が親魚の成熟等に影響を及ぼし加入量の変動をもたらす、という仮説が提言できる。
[成果の活用面等]
- まぐろ類の資源変動機構を解明するための端緒となる研究成果が得られた。
- まぐろ類各魚種・各系群ごとに、海洋環境を取り込んだ資源量推定手法の開発が必要である。
- 産卵前の親魚生息域の水温変動が親魚に及ぼす影響、産卵期の高温化が仔稚魚の成長や生残に及ぼす影響、温帯性まぐろ類の産卵場における冬季の低温化と産卵場の海洋環境(生物生産等)との関係について調査する必要がある。
[具体的データ]
図1. 大気/海洋変動指標の時系列(各指数は標準偏差で正規化されている)。
A: POL (Polar/Eurasia)、B: PNA (Pacific/North American)、C: MOI (Monsoon Index)、D: WP (West Pacific)、E: 亜熱帯循環西部域の表面水温、F: SOI (南方振動指数)。丸印は各年平均、太線は5ヶ年移動平均。
図2. 標準偏差で正規化されたまぐろ類資源量の経年変化。 A:太平洋クロマグロの0才魚加入尾数、B:北太平洋ビンナガ1才魚の加入尾数、C:東部太平洋のキハダ0才魚加入尾数、D:東部太平洋のメバチCPUE(0~9才魚)、E:ミナミマグロの0才魚加入量。丸印は各年値、太線は5ヶ年移動平均。
図3. 大気/海洋変動とまぐろ類資源変動との関係。 A:太平洋クロマグロ加入量とNPI、B:北太平洋ビンナガ加入量とNPI、C:東部太平洋キハダ加入量と北太平洋亜熱帯循環西部域の表面水温、D:東部太平洋メバチCPUEとTNH(ラグ4年)、E:東部太平洋メバチ加入量とNINO1+2(東部熱帯太平洋の表面水温)、F:ミナミマグロ加入量とSOI。
図4. 太平洋クロマグロ加入量と海面水温(緯経度2度升目ごとの時系列データ)との相関係数の水平分布。A:2月、B:6月(主産卵期後期)。琉球列島沖の主産卵場の冬季海面水温と負相関(青色)、産卵後期(6月)には正相関(黄緑)となる(産卵場が冬季に冷たく、産卵後期に暖かくなる年に加入量が増大する)。越冬場である亜熱帯循環北部域(北緯30度付近)で正相関となる(越冬場が高温であるほど加入量が増大する)。
[その他]
研究担当者:稲掛伝三、植原量行
発表論文等:
稲掛伝三・植原量行 (2002): まぐろ類の資源変動とレジーム・シフト. 東大海洋研シンポジウム「気候-海洋-海洋生態系のレジーム・シフトの実態とメカニズム解明へのアプローチ」講演要旨 p. 36-39.
稲掛伝三・植原量行 (2003): まぐろ類の資源変動と大気/海洋変動. 月刊海洋, 35: 180-195.