コード化テレメトリーを用いた複数種(メバチ、キハダ)・複数個体の同時行動観察
[要約]
個体識別可能な超音波発信機(コード化テレメトリー)を用いて、外洋熱帯域で人工筏(FAD)周辺に形成された魚群におけるメバチおよびキハダの日周鉛直行動を複数個体について同時観察した。これまで、遊泳水深はメバチの方がキハダより深いと考えられていたが、FADに形成された小型魚の魚群では、魚種よりむしろサイズによって鉛直遊泳行動が規定されているものと推定された。
遠洋水産研究所、浮魚資源部、熱帯性まぐろ研究室
[連絡先]0543-36-6000
[推進会議]遠洋漁業
[専門]資源生態
[対象]まぐろ、かつお
[分類]研究
[背景・ねらい]
魚群といっても魚種、時期、成因によってその形態は様々である。これら魚群の行動を観察する方法としては、目視、魚群探知機などがある。しかし、まぐろ類に関しては、従来の方法では複数魚種からなる魚群における種ごとの行動を観察することは不可能である。外洋域で漂流物に付く魚群には複数種がみられることが多く、カツオ、キハダやメバチの小型個体が多く見られる。この魚群を対象とするまき網漁業が小型魚を多獲していることが懸念されている。魚種ごとの行動が時空間的に異なるならば選択的漁法の開発も可能である。本研究では、コード化テレメトリーを用いて、魚群内での複数種の行動を観察することを目的とした。コード化テレメトリーは、一種の超音波発信機であり、超音波により各発信機のID、深度に関する情報、すなわち「私は何番、水深何メートルにいます」、を伝達する。この情報を受波器で受信・記録する。人工筏(FAD)に形成された魚群から3魚種(カツオ、キハダ、メバチ)についてサイズが異なる個体を複数捕獲し、コード化テレメトリーを各個体に装着し放流した。これら個体の遊泳・分布情報を同時的に観察、記録した。
[成果の内容・特徴]
- カツオに関しては、放流直後にFAD付近から泳ぎ去ってしまい、観察することはできなかったが、キハダとメバチに関しては、両種合わせて最多時で計12個体ほどの行動を同時観察することに成功した。
- 30cm台のメバチと40~50cm台のメバチは明らかに遊泳水深が異なり、前者が10~80m付近、水温で見ると27℃以上に分布するのに対し、後者は70~110m付近、水温20~28℃を中心として分布しつつも、頻繁に10m付近までの急速な浮上を行う様子が観察された(図1上)。
- キハダ(50~90cm)は、水深20~100m、水温およそ24℃以上に分布しており、それは上記の小型メバチ(30cm台)と40~50cmのメバチの中間かむしろ40~50cmのメバチに近いように見うけられる(図1下)。
- クラスター分析の結果からも、40~50cmのメバチの鉛直移動パターンはむしろキハダに類似しており、小型メバチの行動がその他とはかなり異なっていることが示された(図2)。すなわち、FADに形成される魚群におけるメバチとキハダの鉛直行動は、魚種よりむしろサイズによって規定されているものと推定された。
[成果の活用面・留意点]
- 従来の技術では単一魚種の個体行動しか観察できなかったが、今回の手法により、複数種が混在する魚群という環境の中での各魚種・各サイズの行動、相互関係を把握することが可能になった。
- 魚群内における各魚種の遊泳深度、およびその昼夜による変化を把握することにより、より効率的な漁獲方法の開発、さらに対象魚種以外の漁獲回避技術の開発への応用が期待される。
[具体的データ]
図1 2回目のFAD観察で得られたメバチ(上図)とキハダ(下図)の遊泳水深プロファイル
図2 平均分布水深の差異から見た日周鉛直行動の類縁性(BET:メバチ、YFT:キハダ)
[その他]
研究課題名:(経常研究)メバチ・キハダにおける遊泳行動の把握と海洋特性との関連の解明
研究期間:平成13年度(平成13~17年度)
研究担当者:宮部尚純、岡本浩明
発表論文等:特に無し