水田周辺の農業水路が魚類群集に与える影響の評価
[要約]
上田市周辺の40地点の農業水路の環境と魚類群集との関係を解析した。その結果,魚の種数及び多数度については,水路と水田のつながりがもっとも重要であり,魚が水田へ容易に進入できる水路ほど多様な魚類群集が形成されていた。魚の総個体数やバイオマスは水路の底部や側部がコンクリート化されていない場合に高かった。
連 絡 先 0268-22-0594
推進会議 内水面
専 門 内水面
対 象 他の生物
分 類 調 査
[背景・ねらい]
水田およびその周辺の農業環境は,魚類を始めさまざまな動物によって利用されている。しかし,水田周辺の農業環境が魚類の多様性に与える影響についての定量的研究は乏しい。本研究は,農業水路における魚類群集の多様性を定量的に調べ,各環境要因,特に水路と水田との接続様式の魚類群集への影響を明らかにすることを目的とした。
[成果の内容・特徴]
- 農業水路の環境要因として,水田のつながり,水路の水深,流速,川幅,底質,岸の状態,水質(BOD),周辺の土地利 用,魚の供 給源からの距離,および非灌漑期の水深の10項目をカテゴリー化して記録した。
- 平成8-11年に採捕された魚類は合計19種2323個体であった。このうちドジョウがもっとも多く(40.2%),ついでウグイ(24.5%),タモロコ(12.0%),トウヨシノボリ(7.4%)が続いた。魚類群集の性質と環境要因との関係を数量化1類で解析した。
- 魚の種数および多様度については,水田とのつながりがもっとも重要であり,魚が水田へ容易に侵入できる水路ほど多様な魚類群集が形成されていた。
- 魚への総個体数およびバイオマスは,水路の底部や側部がコンクリート化されていない場合にもっとも高い値を示したが,川幅が広いことや水田のつながりが強いことも重要であった。
- 魚類群集の性質をどの魚が代表するのかを調べるために正準相関分析を行ったところ,種数及び個体数であらわされる第1成分はタモロコの個体数と強い正の結びつきを示し,多様度指数をあらわす第2成分はドジョウの個体数と負の関係にあった。
以上の決壊は,タモロコが多いほど豊富な魚類が生息し,ドジョウが多いほど多様度が低い魚類群集が形成されていることを示し,両魚種は全国に分布していることからも,水田地帯の魚類群集の指標種として適当であると考えられた。
[成果の活用面・留意点]
農業水路の改修やほ場整備にあたっては,農業水路の底部や側部をすべてコンクリートで固めないで自然状態に保つ努力が必要である。また,農業水路と水田との隔差を小さくして,魚類が水田へ自由に行き来できるようにするべきである。これらの情報は生物多様性を考慮した水田地帯をつくるうえで活用できると考えられる。
[その他]
研究課題名:水田および周辺の農業水路が生物多様性に与える影響の評価
予算区分 :特別研究
研究期間 :平成8~11年度
研究担当者:細谷和梅・片野修・井口恵一郎
発表論文等: