マハゼ雄魚の血中ビテロジェニンを指標とした我が国沿岸域の環境ホルモン影響評価
[要約]
環境ホルモンの魚類への影響を調査するため、全国主要都市沿岸でマハゼを採集し、血液中の雌特有タンパクであるビテロジェニン(Vg)濃度を測定した。大都市周辺の一部の内湾で採集したマハゼ雄は、環境ホルモンの影響を受けており、その程度は、10 ng/lの雌性ホルモン濃度の水槽で3週間飼育した場合に相当した。
北海道区水産研究所海区水産業研究部資源培養研究室
[連絡先]0154-91-9136
[推進会議]平成13年度北海道ブロック水産業関係試験研究推進会議
[専門]漁場環境
[研究対象]魚類
[分類]行政
[背景・ねらい]
環境ホルモンの生物への主な影響として雄の雌化が懸念されている。ビテロジェニン(Vg)は卵黄前駆物質として雌に特異的なタンパク質であり、通常、雄から検出されない。したがって、雄における血中Vg濃度は、環境ホルモンのうち、雌性ホルモン様活性を持つ物質の存在を示す指標になると考えられる。現在、同一尺度で、各海域における環境ホルモンの影響の程度を、海産魚類において評価する方法は確立していない。本研究では、全国に広く分布するマハゼのVg濃度を測定することにより、雌性ホルモン様物質の魚類への影響を評価することを目的とした。加えて、飼育水に添加した雌性ホルモン(E2)濃度と誘導される血中Vg濃度の関係を調べ、調査海域での雌性ホルモン様物質の影響の度合いを検討した。
[成果の内容・特徴]
- マハゼ成魚の血液から2種類のVg(分子量530kDaおよび320kDa)を精製し、免疫反応により2種類のVg濃度をそれぞれ測定する方法(ELISA)を確立した(図1)。
- 函館港で9月に採集したマハゼ成魚を、濃度の異なるE2を人為添加した4水槽と無添加の1水槽(対照)で飼育して、水槽中の雌性ホルモン(E2)濃度と飼育雄魚の血中Vg濃度の関係を調べた。雄の2種類の血中Vg濃度は、水槽中のE2濃度に依存して高くなったことから、Vgが雌性ホルモン様物質の存在性を評価するための指標物質として有効であることが確認された(図2)。
- 北海道、宮城県、新潟県、東京都、愛知県、大阪府、兵庫県、福岡県、長崎県の都市沿岸で9~10月に採集したマハゼ成魚の雄のVg濃度を測定した(図3)。大都市近郊の閉鎖性の高い湾でVgが検出される割合が高く、その濃度も高かった(最高 6.0μg/ml)。これらの中で最も高い場合ではE2を10ng/l添加した水槽で3週間飼育した場合とほぼ同程度であった。他の多くの海域での環境ホルモンのマハゼへの影響はそれ以下であった。雄の生殖巣には雌雄同体といった形態異常は認められなかった。
[成果の活用面・留意点]
一つの標本で2種類のVgを測定する本測定法は、より正確な判定を可能とした。日本の主要都市沿岸での環境ホルモンの魚類への影響を同一魚種、同一測定系を用いて評価したことにより、平成10~12年度における秋季の日本沿岸域での環境ホルモン汚染の概況を把握することができた。今後、各調査地点における雌性ホルモン様物質を同定することが重要である。
[具体的データ]
[その他]
研究課題名:内分泌撹乱物質による生殖への影響とその作用機序に関する研究(科学技術振興調整)及び農林水産業における内分泌かく乱物質の動態解明と作用機構に関する総合研究(交付金プロ)
研究期間 :平成13年度(平成10~14年度)
研究担当者:松原孝博、大久保信幸
発表論文等:
学会発表:魚の性の撹乱の現状,松原孝博,第一回環境ホルモン学会講演会講要(1998年8月)
マハゼ、ウグイ雄魚へのエストラジオール17β投与量と血中ビテロジェニン量の関係について,大久保信幸・
松原孝博 ,平成11年度日本水産学会春期大会(1999年4月)
ビテロジェニンを指標とした環境ホルモンの魚類への影響評価,松原孝博 ,日本比較内分泌学会第24回大会(1999年7月)
ビテロジェニンを指標とした海産魚類における内分泌撹乱の実態の解明,大久保信幸・松原孝博 ,内分泌撹乱物質研究発表会(1999年8月)
マハゼ2型ビテロジェニンの測定法確立と環境エストロジェンの影響評価への応用,大久保信幸・持田和彦・
松原孝博,平成12年度日本水産学会春期大会(2000年4月)
マハゼ2型ビテロジェニンを指標とした環境エストロジェンの影響調査,大久保信幸・持田和彦・
松原孝博,平成13年度日本水産学会春期大会(2001年4月)
Development of enzyme-linked immunosorbent assays (ELISAs) for two forms of vitellogenin in Japanese goby
(Acanthogobius flavimanus). N. OHKUBO, K. MOCHIDA, S. ADACHI, A. HARA, K. HOTTA, Y. NAKAMURA, T. MATSUBARA,
70th anniversary of the Japanese society of fisheries science international commemorative symposium (2001年10月)