水産技術研究所長挨拶
世界規模での水産物需要の高まりを受けて、その世界総生産量はこの30年で約2倍に増加しています。特に、養殖生産は近年急速に拡大しており、全体の半分以上を占めるまでになっています。他方で、我が国の養殖生産は国内生産量の5分の1程度であり、世界的な人口増加に伴う養殖市場のグローバル化を考えあわせると、養殖業はまだまだ伸びしろがあるとされています。したがって、衰退の一途をたどっている我が国の水産業において、養殖業を安定的に成長発展させ、所得水準の向上をもたらす産業へと転換させる、いわゆる成長産業化が至上命題となっています。
このような背景のもと、水産研究・教育機構がこれまで行ってきた養殖生産、水産工学、沿岸・内水面環境、利用加工等に係る研究開発をより効率的に進めるために、9つの水産研究所が2020年7月に統合・再編され、水産技術研究所として新たなスタートを切りました。本研究所は、人工種苗生産、育種、飼料開発、疾病対策等の養殖生産に関する研究開発を推進する「養殖部門」と、漁港・漁場整備、漁場環境評価・管理、有毒有害物質による被害軽減、水産物の安全性評価等の研究開発に取り組む「環境・応用部門」の2つの研究部門を擁しており、両部門が互いに連携協力しながら養殖業の成長産業化に係る研究開発を進めています。また、近年では「みどりの食料システム戦略」に基づき、脱炭素社会やSDGsの実現に資する技術開発にも取り組んでいるところです。
水産技術研究所は、養殖業の収益性・持続性の向上や持続的な水産物生産システムの構築に係る研究開発を通じて、養殖生産物の安定供給と養殖業の持続可能な発展に貢献することを目指します。
水産技術研究所 所長 玄 浩一郎