国立研究開発法人 水産研究・教育機構

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はじめに

 このマニュアルは、はじめて水産資源解析を学ぶ方を想定して、作成されています。各章は、「概要」と「具体例」、そして「補足」からなっています。実用面では「概要」と「具体例」で十分です。興味のある方は、「補足」も参考にしてください。「具体例」では、計算のためのエクセル・ファイルのワークシートとその使用方法を掲載しています。エクセル・ファイルをダウンロードして使用して下さい。なお、ワークシートの黄色の部分を参照、または黄色の部分に新たなデータを入力すると、水色の部分に回答が出力されます。またソルバーを用いるワークシートの場合、まずソルバーアドインを読み込む必要があります。その際には4章の最後にある注2を参考してください。ソルバーを用いるワークシートの場合、桃色の部分が目的セルおよび変化させるセルを示しています。なお、ソルバーを使用する場合、きちんと収束していることを確認するために、複数の初期値で計算して同じ値が求まるかを確認して下さい。また、各章の「引用文献」の後に、それぞれの方法を使用している論文を「雛形になる文献」として紹介しました。論文作成の際に参考にしてください。このマニュアルの全体の流れは次の通りです。

1章の「水産資源解析とは」では、水産資源解析の概要を簡単に紹介しています。
2章の「生活史モデル」では、サワラを例に、対象とする資源の漁獲情報などから想定される対象魚の生活史と採集する標本や解析するデータとの関係を示しています。
3章の「標本調査」では、市場調査や調査船調査で必要な標本数や精度について例を示しています。十分な標本が得られない場合、その精度を把握するためにも利用できます。
4章の「魚の成長」では、体長組成から年齢群に分解する方法を紹介しています。また年齢別の平均体長から成長曲線を推定する方法を紹介しています。
5章の「生残率と死亡率」では、生残率と全減少係数の関係、対象種の寿命から自然死亡係数の推定方法を紹介しています。
6章の「資源量推定」では、4章の年齢別漁獲尾数と5章の自然死亡係数を利用して、資源尾数と漁獲係数を求める方法を紹介しています。
7章の「加入当たり漁獲量と加入当たり産卵親魚量」では、4章の成長パラメータを利用し漁獲開始年齢と漁獲係数との関係を調べ、6章で求まる現在の漁獲係数が大きすぎるか否か、また漁獲開始年齢が小さすぎるか否かを診断し、資源管理方策を検討する方法を紹介しています。また、親魚量を考慮した資源管理方策を紹介しています。
8章の「再生産曲線」では、6章で求まる親魚量と加入量との関係を求め、将来の加入量を考えた時に、現在の親魚量が少なすぎるか否かを診断し、資源管理方策を検討する方法を紹介しています。
9章の「種苗放流と漁獲制限」では、栽培対象種では漁獲係数に加え、種苗の放流尾数も制御できます。ここでは、漁業規制と種苗放流が資源に与える影響を評価します。
10章の「プロダクションモデル」では、漁獲量や努力量などのデータだけで資源解析ができる方法を紹介します。

 この水産資源解析マニュアルに作成に際して、東京大学大気海洋研究所・海洋生物資源部門・資源解析分野の平松一彦准教授には、追加した章を含め、原稿全体の校閲やエクセル・ファイルのワークシートの点検など、多大なご協力を頂いただきました。また、神奈川県水産技術センター相模湾試験場の相澤康主任研究員には、体長組成解析のエクセル・ファイルのワークシートを提供頂くとともに、原稿に助言を頂いただきました。中央水産研究所・資源管理センターの赤嶺達郎主幹研究員には、成長曲線を求めるエクセル・ファイルのワークシートを提供頂くとともに、原稿に助言を頂いただきました。日本海区水産研究所・資源管理部の木所英昭資源管理グループ長には、サワラ生活史の資料を提供頂くとともに、助言を頂いただきました。また、中央水産研究所の亘真吾研究員から種苗放流と漁獲制限に関するエクセル・ファイルのワークシートを提供いただきました。また、10章については国際水産資源研究所の竹内幸夫主幹研究員から有益な助言をいただきました。ご協力頂いた各氏に対して深くお礼申しあげます。最後に、この水産資源解析マニュアルの作成は、日本海区水産研究所の職員や日本海ブロックの水産研究機関の方々との意見交換がきっかけとなっています。これらの多くの方々に厚くお礼申し上げます。

2014年4月

石田行正