国立研究開発法人 水産研究・教育機構

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質問 1

古典的なMSY理論と「MSYの新定義」によるMSY理論の相違を説明して下さい。「新たな水産資源の管理」で使用するMSYは古典的なMSY理論とは異なるかのように、意図的に誤った説明をしているのではないでしょうか?

 古典的なMSY(最大持続生産量)が決定論的な(一義的に決まる)再生産関係に基づいているのに対し、今回算定したMSYは、再生産関係に関して、加入のバラツキや(必要な時には)自己相関(加入が良い年あるいは悪い年が続く傾向)を組み込んだシミュレーションに基づいています。つまり、加入に影響を及ぼす要因として、環境要因か親魚量かの二者択一的な議論ではなく、双方の影響を考慮しています。したがって、「令和元(2019)年度 漁獲管理規則およびABC算定のための基本指針」におけるMSYや管理基準値等は、古典的なMSYと異なり、環境の影響を考慮するとともに、不確実性(分からない部分)に頑健なものになっています。

(2019年8月30日)

質問 2

「現在の環境下における「MSY」が計算できる」とあるが、「現在の環境下」とは、例えば、マサバ太平洋系群の場合は、1970年から2017年までの48年間を指すのか?「現在の環境下」と考えるには、48年間は長すぎないか?この間、3回のレジームシフト(1976/77、1989/90、1998/99)が起きたことが知られているが、レジームシフトに関係なく、1つの「MSY」、1つの「MSYを達成する親魚量」のみを推定して、「環境変動に対応した...」と言えるのか?

 質問1で回答しているように、今回算定したMSYは、加入のバラツキ等を組み込んだ計算をすることで、環境の影響にも対応しています。
 また、マサバ太平洋系群に関しては、海洋環境のレジームに応じて再生産成功率が劇的に変化するというよりは、緩やかに変化していると見るほうが妥当と考えられます。この緩やかな変化を組み込むために、加入の残差(再生産関係からのズレ)に自己相関を考慮して、MSYや管理基準値の算定を行っていますが、推定された自己相関係数は0.37であり、この値は特別に高い値ではありません。例えば、154個の資源から加入変動を推定したメタ解析(複数の研究の結果を統合して行う解析)では、平均的な自己相関係数が0.43という結果が得られています(Thorson et al. 2014, CJFAS 71: 973-983)。したがって、レジームに応じて再生産関係が変化する資源という証拠は得られていないため、レジームを分けてMSYを算定するのではなく、利用可能な全期間(1970-2017年)のデータを使用してMSYを算定しています。
 なお、マサバ太平洋系群とゴマサバ太平洋系群を対象とした第一回「資源管理方針に関する検討会」(以下、検討会)での議論をふまえ、レジームを区分した場合の試算結果についても第二回検討会では示すことにしました。

(2019年8月30日)

質問 3

 マサバ太平洋系群について、第1のレジーム(1977-1989)での加入量と親魚量の減少は乱獲によるものであり、第2のレジーム(1990-1998)で加入量は増加に転じ、親魚量が下げ止まったこと、また、第3レジーム(1999-)に入り、加入量はさらに増加し、親魚量も増加したのは、管理(TAC制度)が成功したからであるとお考えになっているのでしょうか?
 また、「現在の環境下における「MSY」が計算できる」とあるが、レジームシフト等の環境変動の影響は、どのように反映されているのか?説明をお願いしたい。

 マサバ太平洋系群とゴマサバ太平洋系群を対象とした第一回「資源管理方針に関する検討会」では、 (1)マサバ太平洋系群の加入メカニズムについて、産卵期・海域が早期・低水温であるほうが好条件であるものの、その後の生残に関してはより高温の適水温域に速やかに移動することが必要であり、高水温期・低水温期といった区分と単純に対応した変動とは考えられないこと、 (2)第1の期間とそれ以降の期間では再生産関係の変動幅に違いがあり、第1の期間のほうが安定的であることを示し、これは親魚が高齢まで広い年齢群で構成されていることで説明でき、環境要因との関係だけではとらえられないこと、 (3)マイワシ太平洋系群については1988~1991年に4年連続で極めて再生産成功率の低い年が見られ、ほぼ同時期にマサバ太平洋系群についても再生産成功率の低い年が見られたものの、長期的にはこれら2種では資源変動は異なると考えられること、 (4)第2の期間にあたるマサバ太平洋系群の資源低水準期においては、低年齢時から漁獲圧が高まる傾向が見られ資源回復に至らなかったことを説明しました。さらに、TAC対象種では総じて漁獲割合が低下してきたこと等が示されています(Ichinokawa et al. 2017, ICES. JMS 74: 1277-1287)し、近年における太平洋マサバの資源管理効果についても示されています(Ichinokawa et al. 2015, Ecological Applications 25:1566-1584)。
 レジームシフト等の環境の影響については、質問2で回答しています。

(2019年8月30日)

質問 4

シュカルスキーらは224にもおよぶ系群の再生産関係を調べ、「85%の系群で、子の数は親の量によっては決まらず、環境による影響の方がはるかに大きい」ことを示した。シュカルスキーらが示した再生産関係は、85%以上で、親魚量と加入量が無相関となるか、負の相関(親魚量が増大すればするほど、加入量は減少する)を示すかの2パターンとなることを示した。そのようなデータを使って、MSYを推定することに意味があるのか、説明をお願いしたい。

 親魚量に対して加入量が一定の場合や、親魚量の増加に伴い加入量も増加するデータしか得られていないような場合等には、MSYの算定が困難になります。
 「令和元(2019)年度 漁獲管理規則およびABC算定のための基本指針」では、このような問題への統一的な解決策として、ホッケー・スティック型の再生産関係(HS)を適用することを提案しています。実際には、HSの折れ点が親魚量の観測値の範囲内に収まるように制約をつけており、これにより現実的な管理基準値を得ることが可能となります(Ichinokawa et al. 2017 ICES. JMS 74: 1277-1287)。当然、実際の折れ点は、観測値の範囲外にある可能性もありますが、データの蓄積に伴い、折れ点や目標管理基準値の推定精度を向上しながら資源管理を行うことで、順応的な管理ができると考えられます。例えば、現在までに観測されてきた親子関係が比例関係の場合には、折れ点を観測された親魚量の最大値と仮定したうえで目標管理基準値を設定しつつ、今後、これまでの親魚量の観測値の範囲を上回る情報が蓄積されれば、より正確な目標管理基準値の算定が可能になります。そのため、今回提案した目標管理基準値は、MSY水準を目指した資源管理を行ううえで、適切な目標と考えられます。なお、これまでに観測されたデータからでは正確な折れ点の推定が困難な資源に対しても、この順応的管理に基づくアプローチで適切に資源管理ができることは、管理戦略評価(MSE)手法を用いた検討により確かめられています。
 さらに、HSよりも適切と考えられる場合には、リッカー型やベバートン・ホルト型の再生産関係も適用可能です。

(2019年8月30日)

質問 5

 ゴマサバ太平洋系群の再生産関係に回帰直線をあてはめると、傾きは0.018となり、X軸にほぼ平行な直線になる。つまり、加入量と親魚量は無相関という結果が得られる。加入量と親魚量が無相関であるデータからMSYを推定することに科学的正当性はあるか、説明をお願いしたい。ちなみにICCATのクロマグロでは、再生産関係が不明であるとの理由から、2017年からクロマグロ資源に対してMSYの推定をやめ、神戸プロットの使用も止めている。なぜ、このような無相関なデータにホッケー・スティックモデルをあてはめて、MSYを推定しようとするのか、その科学的正当性について説明をお願いしたい。

 ホッケー・スティック型の再生産関係を適用する理由については、質問4で回答しています。
 なお、国際的に神戸プロットを使わない方向にあるとは認識していません。例えばNPFC(北太平洋漁業委員会)ではサンマ資源を対象に神戸プロットが使用されていますし、WCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)でも、マジュロプロット(20%BゼロとFmsyが基準)とともに神戸プロットも提示されています。ICCAT(大西洋まぐろ類保存委員会)のクロマグロについては、モデル設定により資源量の判断が大きく異なったり、過剰漁獲でないことは合意されるものの資源量の判断としては合意に至らないといった、当該資源をめぐる特定の事情により、神戸プロットが使用されていないものと認識しています。

(2019年8月30日)

質問 6

 ゴマサバ東シナ海系群の再生産関係として、ホッケー・スティックモデルがあてはめられている。この場合は、観測された親魚量の最大値8万5千トンで折れ曲がるホッケー・スティックモデルがあてはめられている。従って、折れ曲がっている点より大きな再生産関係を示すデータはない。もし、この点で折り曲げずに、直線をそのまま引き延ばしたモデル(比例モデルという)を考えると、統計的には、この比例モデルの方が、ホッケー・スティックモデルより良いモデルと判断されるはずである。なぜなら、上記ホッケー・スティックモデルと比例モデルの2つのモデルで、計算値と観測値の差を二乗して合計した値(偏差二乗和という)は、そちらのモデルでも同じ値になる。しかし、モデルに使用するパラメータ数は比例モデルが1つ、ホッケー・スティックモデルが22つだから、比例モデルの方が使用するパラメータ数は1つ少ない。当てはまりが同じなら(偏差二乗和の値が同じなら)、より簡単なモデルの方がモデルの評価得点が高く、いいモデルだと判断されるので、ゴマサバ東シナ海系群の再生産関係として最適なモデルは比例モデルということになる。
 しかし、比例モデルを採用すると、MSYが計算できないので、MSYを計算するために、より良いモデルを捨て、ホッケー・スティックモデルを採用したと考えられる。比例モデルではなく、ホッケー・スティックモデルを採用する科学的正当性について説明をお願いします。

 観測値の範囲内では、親子関係が比例関係にあるような資源についても目標管理基準値を算定するための解決策として、ホッケー・スティック型の再生産関係(HS)を適用する理由については、質問4で回答しています。
 仮に、比例モデルを仮定すれば、安定して漁獲が得られる親魚量を決定することができず、同じ環境条件ならば親魚量が多いほうが加入量は多く、親魚をできる限り多く残すべきであるということになります(松田ら 2018, 月刊海洋 50: 430-454)。今回の目標管理基準値等の算定については、資源を効率的に活用するため、観測された親魚量の最大値をHSの折れ点に定めたうえで、折れ点周辺の情報を得ることにより、より正確な目標管理基準値を定めようという順応的管理の考え方に基づいています。
 なお、情報のない観測値の範囲外について、どちらが正しいモデルかを判断することはできません(親魚量が増加すれば、加入もそれに応じて無限に増加していくという比例モデルが“より良い”わけではありません)。我々が行ったシミュレーションでは、情報の蓄積に伴い、更新された管理基準値に基づく資源管理を実施していくことにより、適切な管理が行えることが確認されています。

(2019年8月30日)

質問 7

 マサバ太平洋系群の再生産関係は大きく2つの部分に分けることが可能で、増加していく時代と減少していく時代に分けられる。前者では、親魚量が増加していくにも関わらず、加入量は増えつづけ、後者では、親魚量が減少しているにも関わらず、加入量は減りつづけていることがわかる。
 リッカーモデルでは親魚量が過大になると加入量は減少し、ホッケー・スティックモデルは親魚量がある値以上に大きくなると、加入量は一定値になるというモデルである。しかし、上記のような再生産関係の軌跡はリッカーモデルやホッケー・スティックモデルでは全く説明できず、リッカーモデルやホッケー・スティックモデルが誤りである(架空のものである)ことを示していると考えられるが、それに対する見解をお聞かせ下さい。

 今回使用しているホッケー・スティック型の再生産関係(HS)を対数スケール上にプロットすると以下の図のようになります。増加時期と減少時期のいずれも、そのほとんどは折れ点より低い範囲に位置しています。HSでは、親魚量がある値以上に大きくなると加入量を一定とするのはその通りですが、マサバ太平洋系群で適用しているHSは観測値と矛盾しない結果となっています。
ホッケー・スティック型の再生産関係(HS)を対数スケール上にプロットした図

(2019年8月30日)

質問 8

 3年移動平均をとってゴマサバ太平洋系群の再生産関係を図示すると、スケトウダラ太平洋系群同様、親魚量の増大に伴って加入量も増大する時期と、親魚量の減少に伴って加入量も減少する時期の2つに分けられることがわかる。
 上記のような再生産関係の軌跡はホッケー・スティックモデルでは全く説明できないにも関わらず、このようなデータにホッケー・スティックモデルをあてはめてMSYを推定することの科学的正当性についてご説明をお願いします。

 ゴマサバ太平洋系群のMSY算定には、ホッケー・スティック型の再生産関係(HS)ではなく、リッカー型の再生産関係(RI)を適用しています。当該系群における加入量と親魚量のデータが利用可能な期間は1995年以降と比較的短く、親魚量に対して加入量がほぼ一定のため、仮に再生産関係を誤って適用していたとしても管理が失敗するリスクを軽減できるとの観点で、モデルを比較した結果、RIを採用しました。具体的には、HS(あるいはRI)が正しい場合に、誤ってRI(あるいはHS)から算定された管理基準値に基づく資源管理を行った場合の親魚量と漁獲量の推移を調べました。その結果、RIが正しいにもかかわらず誤ってHSを仮定すると、親魚量が大きく減少し限界管理基準値を下回るリスクが増大するのに対し、HSが正しいにもかかわらず、誤ってRIを仮定するとそのようなことは起こらず、かつ本来得られる漁獲量からの減少程度も相対的に小さかったため、RIを適用することとしました。このように、必ずHSを適用しているわけではなく、判断が難しい場合には、シミュレーションによってリスク分析を行ったうえで、再生産関係の選択や管理基準値の算定を実施しています。

(2019年8月30日)

質問 9

 ゴマサバ太平洋系群の過去の親魚量と漁獲量の時系列、および、シミュレーションによる親魚量と漁獲量の時系列は、MSY理論が誤りであることを示していると思われるが、どのようにお考えですか?

 ゴマサバ太平洋系群では、1990年代後半から2000年代前半にかけて、漁獲量がMSYよりも多く、漁獲圧が過剰となることで、親魚量がMSY水準(SBmsy)よりも低く推移したという、MSYの考え方に合致した結果が得られています。その後、親魚量が増大したのは、漁獲量や漁獲圧が減少したためではなく、2004年と2009年に卓越年級群が発生したためです。この期間の加入量については2つの尖ったピークが見られることからその影響が読み取れます。卓越年級群が発生していない2010年以降は、漁獲量と親魚量を維持することができず、2000年代前半の状態は持続可能でなかったことを示唆しています。
 また、ゴマサバ太平洋系群では、現状の漁獲圧でもMSY水準(Fmsy)をやや下回るので、漁獲圧を削減する必要があるという結果にはなっていません。新たな漁獲管理規則を適用したからといって、すべての系群で漁獲圧を削減する必要があるというわけではなく、本系群のように現状の漁獲圧の水準が推奨されるものも存在します。

(2019年8月30日)

質問 10

 ゴマサバ東シナ海系群の過去の親魚量と漁獲量の時系列、および、シミュレーションによる親魚量と漁獲量の時系列は、MSY理論が誤りであることを示していると思われるが、どのようにお考えですか?

 ゴマサバ東シナ海系群については、MSY水準(Fmsy)を上回る漁獲圧のもとで、親魚量と漁獲量がともに経年的に減少しているため、誤りであるとは考えていません。今回の検討の結果、当該資源はこれまで限界管理基準値付近で推移し、当該資源の再生産能力を十分に活用できない状態にあったと考えています。

(2019年8月30日)

質問 11

 「新たな水産資源の管理について」の6ページ目に記載されている図(少し改変して下記の図1に示した)と古典的なMSYを用いた資源管理の図(下記の図2)との相違を説明してください。
MSYと管理基準値案の関係(マサバ太平洋系群)の図

古典的なMSY理論の図

 加入尾数(加入量)は、再生産関係からズレたものとなりますが、これは加入量が、親魚量だけでなく環境の影響なども受けるためです。MSYを実現する親魚量を算定する際には、この再生産関係からの加入量のズレ(加入量の変動)を考慮しています。具体的には、加入量が変動する中で、様々な漁獲圧で漁獲した場合の平均漁獲量と平均親魚量を計算し、その中で、最大となる平均漁獲量に対応した平均親魚量がMSYを実現する親魚量となります。上記の図1は、これら平均漁獲量と平均親魚量のみを示したものとなっていますが、これは加入量の変動に基づく漁獲量や親魚量の変動(平均値からのズレ)を図示すると、かえって分かりづらいと判断したためです。その結果、図の見た目については、加入量の変動を考慮した上記の図1と、考慮していない上記の図2が似通ったものとなります。
 また、資源管理としては、例えば、親魚量が限界管理基準値案以上にある場合には、MSYを実現する漁獲圧(Fmsy) に安全のための係数βを乗じたβFmsy による漁獲を続けるという漁獲シナリオを提案しています。この結果、例えばβを1とする漁獲シナリオが選択された場合、加入量の変動に伴い漁獲量と親魚量は変動しながらも、平均的には親魚量はMSYを実現する水準に維持されるとともに、漁獲量も平均的にはMSYを達成することになります。

(2020年2月19日)

質問 12

 下図はマサバ太平洋系群の再生産成功率(RPS)の経年変化を示したものです。黒の横棒は全期間のRPSの平均値(全平均)を示したものです。第1のレジームでは、各年のRPSはほとんどが全平均より小さく、第2、第3レジームでは、各年のRPSはほとんどが全平均より大きく、それに伴って、加入量の増減が生じています。第1のレジームでは、加入量はずっと減少傾向にあったものが、第2レジームでいきなり全平均に近い値まで回復したのは、第2レジームでの全平均よりも高いRPSによるものです。このような加入量の変化に対応して、親魚量も変動していることがわかります。レジームシフトの影響は極めて大きいのではないでしょうか。
マサバ太平洋系群の加入量と親魚量の時系列

マサバ太平洋系群の再生産成功率の時系列

 再生産成功率は、加入量を親魚量で除し、加入量に対する親魚量の影響を取り除くことにより、加入に至るまでの生残率(環境の影響)を表した指標です。一方、加入量は、親魚量で除していないため、環境の影響に加え親魚量の影響も受けるとともに、親魚の年齢構成などによっても変化することが明らかになってきています。さらに、親魚量や親魚の年齢構成については、漁獲の影響も受けます。そのため、加入量の変動要因については、環境の影響(再生産成功率)だけでなく、多面的な検討が必要です。
 また、マサバ太平洋系群については、再生産関係からの加入量のズレ(加入量の変動)を考慮してMSYを実現する親魚量の算定を行っていますが、加入量の変動について推定された自己相関(加入が悪い(良い)ときは悪い(良い)状態が続く現象)の強さを表す係数は0.37であり、この値は、自己相関を考慮した再生産関係を採用すべきではありますが、レジームに応じて再生産関係を変化させる必要まではないことを示しています。なお、レジームにより異なる再生産関係を仮定した場合でも、仮定しない場合に比べて、再生産関係による加入量の予測力は向上しないことが示されています。

(2020年2月19日)

質問 13

 HSモデルの科学的正当性を示してください。「ホッケー・スティックの折れ点が親魚量の観測値の範囲内に収まるように制約をつけた」「それにより現実的な管理基準値を得ることが可能」と回答されていますが、 その科学的根拠を示して下さい。

 再生産関係を表すモデルについては、国際的に使用されているリッカー型(RI)、ベバートン・ホルト型(BH)、ホッケー・スティック型(HS)の中から選択しています。ただし、BHのような再生産関係では、MSYを実現する親魚量が非常に大きな値として推定され、実際の資源管理目標として用いるには非現実的な場合があることが知られています。一方、HSを使用すれば、その特性により、親魚量の観測範囲外に折れ点を持つような推定を防ぐことができるため、MSYを実現する親魚量を現実的な範囲で与えることができます。また、このように現実的な範囲で与えたMSYを実現する親魚量が、MSYを実現する真の親魚量と異なる場合でも安全な管理が可能であることが、現実の個体群動態を模倣したシミュレーションによって確かめられています。つまり、現在利用可能な最大限の情報に基づくと、HSの折れ点が親魚量の観測範囲の境界となる場合でも、新たに得られた情報に基づき折れ点を推定し直すことにより、安全な管理が行えることが確かめられています。このように、水産資源が有する大きな不確実性に対しても安全な管理が行える方法を用いることは、現代的な水産資源管理で広く採用されています。

(2020年2月19日)

質問 14

 「これまでに観測されたデータからではホッケー・スティックの正確な折れ点の推定が困難な資源に対しても、順応的管理に基づくアプローチで適切に資源管理ができる」 と回答されていましたが、順応的管理に基づくアプローチで適切に資源管理ができた例を示して下さい。

 髭鯨類の管理のために開発されたRevised Management Procedure(RMP)という管理方式で利用されているCatch Limit Algorithm(CLA)という捕獲枠算定方式では、最初に正確に資源量を推定できなくとも、情報の蓄積に応じて順応的に対処することにより、うまく管理ができるということがシミュレーションで示されています。HSについても同じ考えに基づき、最初に折れ点の位置が正確に推定できない場合でも、情報の蓄積に伴い折れ点の位置を正確に推定できるようになることにより、うまく管理できることをシミュレーションにより確認しています。
 順応的管理に基づくアプローチで適切に資源管理ができた例は、これまでにも多くの報告がなされており、例えばEdwards & Dankel (2016) Management Science in Fisheriesをご参照ください。本書籍で紹介されている様々な管理方式も、シミュレーションによって安全に管理できることが確認されたものとなっており、著者らは、このような現代的な水産資源の管理のあり方をpost-normal science(不確実性が大きく、対象の価値が高いような状況で、素早く意思決定をしなければいけないような状況では、従来の正解がひとつであるというような科学観ではうまく対処できず、広い不確実性に対処可能な方法をとる必要がある、というような考え方。ジェローム・ラベッツ「ラベッツ博士の科学論 ―科学神話の終焉とポスト・ノーマル・サイエンスー」参照)の中に位置づけています。

(2020年2月19日)

質問 15

 神戸プロットを説明している回答で「20%BゼロをBMSYの代わりに使用してもいい」と言える科学的根拠について教えてください。また、WCPFCの資源評価に見られるマジュロプロットではなぜ20%Bゼロを用いているのですか。

 資源の増加率(出生と成長から自然死亡や漁獲死亡を引いたもの)は資源ごとに異なりますが、様々な増加率を持つ資源について、BMSYはB0の20-50%の間にあることが知られており(例えば、Punt et al. (2014) Selecting relative abundance proxies for BMSY and BMEY. ICES Journal of Marine Science 71(3): 469-483をご覧ください)、20%B0をBMSYの代替値として使用することには科学的根拠があります。
 なお、WCPFCにおいては、カツオやメバチなどのまぐろ類の限界管理基準値を20%B0とすることが合意されていることから、マジュロプロットでは20%B0を基準にして資源状態を示す形となっています。

(2020年2月19日)

質問 16

 再生産関係へのモデルの適用について、赤池情報量基準AICに必ずしも基づいていないですが、どのような基準で選択されたのでしょうか。

 観測範囲内で親魚量と加入量の間に明瞭な正の相関関係が見られない資源や、負の相関関係が見られるような資源に再生産関係を当てはめた場合には、過去最低の親魚量未満においても、親が減っても加入が減らないような再生産関係となる場合があります。このように、過去に経験したことがないような低い親魚量において、加入量が保守的でない(高い)値となるような再生産関係については、予防的な観点から選択していません。
 また、複数の再生産関係によって、同程度のMSYを達成する親魚量が得られた場合には、MSYを達成する親魚量の頑健性を確保する観点から、これら複数の再生産関係の一つを選択しました。
 さらに、加入量の予測力が同等と考えられる再生産関係が複数ある場合には、選択した再生産関係以外が正しかった場合でも、資源管理の失敗リスクが最小となるような再生産関係を選択しました。
 各資源の再生産関係については、AICに加え、上記のような基準により選択しています。

(2020年2月19日)

質問 17

 ゴマサバ東シナ海系群では、歴史的にMSY水準を下回る漁獲量であったのに、なぜ親魚量は回復しなかったのでしょうか?

 ゴマサバ東シナ海系群については、親魚量が限界管理基準値案付近にあったため、期待できる漁獲量はMSY水準を下回っていました。そのため、漁獲量がMSY水準を下回っていても、資源は回復しませんでした。

(2020年2月19日)

質問 18

 サバ類に適用する再生産関係の選択においてAICが小さいものを選んでいないのはなぜでしょうか?

 再生産関係については、加入量の予測力(親魚量から加入量を予測する精度)が高いことが求められますが、サバ類4系群については、以下の点等も考慮して再生産関係を選択しました。

  • 過去最小値未満等、親魚量が少ない状況において、加入量を過大に予測することを回避する
  • 予測力が同程度の再生産関係が複数ある場合には、選択した再生産関係が実際とは異なる場合にも、選択した再生産関係に基づく管理を行うことによる資源に与えるリスクを相対的に小さくできる
  • 複数の再生産関係によって同程度のMSYを実現する親魚量が得られる場合には、これらの再生産関係の一つを選択することにより、MSYを達成する親魚量の頑健性を確保する

(2020年7月20日)

質問 19

 ホッケースティックモデルを用いて過去の資源変動の再現は可能なのでしょうか?

 ホッケースティック型の再生産関係から予測される加入量は、各親魚量から予測される加入量の平均値であり、実際の過去の加入量は、この平均値に環境の影響等による誤差(ズレ)が加わったものです。そのため、過去の加入量や親魚量等をホッケースティック型の再生産関係により完全に再現することはできませんが、AICに基づきホッケースティック型の再生産関係が選択されたマサバ太平洋系群については、検討された再生産関係の中ではホッケースティック型により最も精度の高い加入量の再現が可能です。

(2020年7月20日)

質問 20

 ホッケースティックモデルを用いた場合は、漁獲量規制の効果が過小評価されるのではないですか?

 親魚量の観測範囲内で再生産関係が直線に近い形になる資源について、親魚量の過去最大値を折れ点とするホッケースティック型の再生産関係を適用すれば、将来予測において親魚量が過去最大値を上回った場合には加入量は頭打ちとなりますが、過去最大値を上回る親魚量における加入量の過大推定を避けるため等にも、このようなホッケースティック型の再生産関係の適用は適切と考えられます。なお、再生産関係については、過去最大値を上回る親魚量が観測され続ける場合等には、随時再検討を行う予定です。

(2020年7月20日)

質問 21

 ゴマサバ太平洋系群に対して、現状の漁獲圧で操業した時の親魚量の将来値が2019年版と2020年版で大きく異なるのはなぜでしょうか?

 資源評価の結果については、新しいデータの追加に伴い毎年更新されますが、ゴマサバ太平洋系群については、2019年度の資源評価結果から2020年度の資源評価結果に更新するにあたって、近年の親魚量については下方修正を、現状の漁獲圧については上方修正を行いました。将来予測についても、これらの修正等の影響により、2019年度の資源評価と2020年度の資源評価で異なる結果となりました。なお、2019年度の資源評価結果から2020年度の資源評価結果への修正については、資源量指標値の一つである産卵量の変動傾向等から妥当な修正と考えられます。

(2020年7月20日)

質問 22

 マイワシ太平洋系群について、親魚量に対する加入量水準が極めて低かった1988~1991年を含む時期に対して推定したホッケースティックモデルに基づき将来予測を行うことは誤りではないでしょうか?

 マイワシ太平洋系群の再生産関係については、資源変動とレジームシフトの関係等に関する知見(Yatsu et al. 2005、Takahashi et al. 2009、Kurota et al. 2020)を踏まえ、1987/1988年で区切り、1976~1987年を高加入期、1988~2018年を通常加入期とすることが適切と判断しました。また、この区切り年については、2年ずらす(区切り年を1988/1989年か1989/1990年とする)ことによる影響も検討しましたが、再生産関係の予測力(親魚量から加入量を予測する精度)に基づくと、1987/1988年で区切ることが最善と判断されました。さらに、両年代の再生産関係については、その予測力等に基づきホッケースティック型が選択されたため、本系群の将来予測には、1988~2018年の通常加入期におけるホッケースティック型の再生産関係を適用しました。なお、2018年級の加入量については、通常期の再生産関係から予測される値よりもかなり高い値となっていますが、現在が1987年以前のような高加入期にあると判断するには情報が不足しているため、将来予測においては通常期の再生産関係を適用しています。ただし、将来予測には今後も高加入期の再生産関係は用いないというわけではなく、将来予測に用いる再生産関係については、2019年級以降の加入状況等を注視しながら検討していく予定です。

(2020年7月20日)

質問 23

 マイワシ太平洋系群については、1988~1991年の値を除外すると、再生産成功率(RPS)と加入量は無相関です。密度効果を仮定したホッケースティックモデルを適用することには科学的正当性がないのではないでしょうか?

 マイワシ太平洋系群については、1988~1991年を外すことにより、RPSと加入量の関係は無相関になるとのご指摘ですが、逆に、1988~1991年を外れ値として関係から除外することの科学的正当性について疑問を持ちます。環境要因に基づくRPSの再現結果(下図)においても、1988年と1991年については上手く再現できていません。なお、前述の通り、本系群の再生産関係について、1987/1988年で区切り、1988年以降を通常加入期とすることは、資源変動とレジームシフトの関係等に関する知見に基づいています。
環境要因を用いて再現したマイワシ太平洋系群の再生産成功率

(2020年7月20日)

質問 24

 マイワシ太平洋系群について、過去の全期間を通した43年間(1976~2018年)の再生産成功率(RPS)をリサンプリングするという手法による将来予測は予定していないのでしょうか?

 マイワシ太平洋系群に関する全期間(43年間)を通したRPSの平均値は29.2尾/kgですが、全期間(43年間)では、RPSがこの値を下回る年の方が多くなっています。一方、高加入期(1987年以前)においては、この値を上回る年の確率が高まっています。近年においては、2018年級の加入量が特に高い値となっていることから、2019年級以降の加入状況もみながら、高加入期へ移行したものと判断されれば、将来予測では高加入期における再生産関係を適用する予定です。

(2020年7月20日)

質問 25

 マイワシ太平洋系群に関する将来予測が過小評価であることが将来明らかとなった場合には、どのように対処するのでしょうか?

 マイワシ太平洋系群については、今後も通常加入期が続くことを想定した漁獲管理規則案の下でも、実際には2019年級以降も高加入が続く場合には、将来に得られる漁獲量は現状よりも大きく増大すると予測されます。本系群について2020年5月29日に公表した研究機関会議資料においても、現在が実際には高加入期であった場合に、通常加入期を想定した漁獲管理規則案を適用することによる漁獲機会を失うリスクを分析しています。当然、そのような漁獲機会を失うようなリスクについては可能な限り小さくする必要があるため、高加入期への移行については可能な限り早期の把握を目指します。

(2020年7月20日)

質問 26

 「平均漁獲量と平均親魚量のみを示すと、古典的なMSYの図と新しいMSYの図は似通ったものとなる」ということであるが、実際に使用するMSYは、平均漁獲量であり、実際に使用するMSY資源水準は平均親魚量であるから、図が似ているだけではなく、実施の使用の仕方も実質的には同じになるのではないか?

 古典的なMSYのように、ある一定の親魚量を維持すれば、ある一定の漁獲量が得られるという定常的なものではなく、環境の影響による親魚量や漁獲量などの年変動を考慮したものとなっています。また、漁獲管理規則を提案し、漁獲の強さとそれに基づく将来の目標達成確率等を組み合わせた資料として、資源管理方針の検討のために提出しています。

(2020年9月17日)

質問 27

 「レジームに応じて再生産関係が変化する資源という証拠は得られていないため、レジームを分けてMSYを算定することはしない」ということであるが、「レジームに応じて再生産関係が変化しない資源という証拠も得られていないのではないか?

 マサバ太平洋系群については、再生産関係を高水準期と低水準期で区別した場合も検討しましたが、再生産関係の予測力(親魚量から加入量を予測する精度)は向上しませんでした。また、本種はマイワシと異なり、海洋環境のレジームに応じて再生産成功率が劇的に変化するというよりは、緩やかに変化していると考えられるため、全期間を通した一つの再生産関係を適用しました。再生産関係の適用については、新たなデータの追加に伴い、今後も検討を行っていく予定です。

(2020年9月17日)

質問 28

 「加入量の変動要因については、環境の影響(再生産成功率)だけでなく、多面的な検討が必要です。」ということですが、そのことが再生産成功率の変化を考慮しないことが正当化されるわけではありません。

 再生産成功率の変化については、再生産関係からの加入量の年変動や一定期間その傾向が続く、という形で考慮しています。その上で、マサバに関する親魚の年齢構成など多面的な検討が今後必要と考えています。

(2020年9月17日)

質問 29

 「MSYの算定が困難な時は、その解決策として、ホッケー・スティック型の再生産関係(HS)を適用することを提案しています。」ということですが、その科学的根拠を質問しているのです。

 親魚量の観測範囲内で、加入量が親魚量の増加に伴い直線的に増加する資源については、過去最大値を上回る親魚量における加入量の過大推定を避けるため、親魚量の過去最大値を折れ点とするホッケースティック型の再生産関係の適用は適切と考えられます。また、これにより、MSYを実現する親魚量(SBmsy)が、実際の資源管理目標として用いるには非現実的な値となることを防ぐことができます。さらに、このように現実的な範囲で算定されたSBmsyが、真のSBmsyと異なる場合でも、新たに得られた情報に基づき折れ点を推定し直すことにより安全な管理が可能であることが、現実の個体群動態を模倣したシミュレーションによって確かめられています。
 なお、親魚量の観測範囲内で、加入量が親魚量に対して一定である資源については、過去最低値を下回る親魚量における加入量の過大推定を避けるため、親魚量の過去最低値を折れ点とするホッケースティック型の再生産関係の適用は適切と考えられます。

(2020年9月17日)

質問 30

 「実際には、HSの折れ点が親魚量の観測値の範囲内に収まるように制約をつけており、これにより現実的な管理基準値を得ることが可能となります」これも、自分たちは、そういうルールにしたと言っているだけで、科学的正当性には言及していない。

質問29で回答済みです。

(2020年9月17日)

質問 31

 スケトウダラ日本海北部系群についても、観測された親魚量の最大値である34万1千トンで折れ曲がるホッケー・スティックモデルがあてはめられている。その科学的正当性は?

質問29で回答済みです。

(2020年9月17日)

質問 32

 スケトウダラの再生産関係は日本海北部系群が正の傾きを持ち、太平洋系群が負の傾きを持つ。同じ魚種であるにも関わらず、傾きが真逆になるメカニズムを説明して下さい。

 親魚量の観測範囲内において、スケトウダラ日本海北部系群については、親魚量と加入量の間に正の直線関係を適用しているのに対し、スケトウダラ太平洋系群については、親魚量に対して加入量が一定となる関係を適用しています。つまり、親魚量の観測範囲内において、スケトウダラ日本海北部系群については密度効果が認められないのに対し、スケトウダラ太平洋系群については密度効果が認められることを意味しています。スケトウダラ太平洋系群について密度効果が認められる一因としては、本系群では親が子供を捕食する共食いが活発であることが考えられます。一方、スケトウダラ日本海北部系群については、資源水準が低い状態でのデータが主であるため、密度効果が検出されない可能性が考えられます。

(2020年9月17日)

質問 33

 「情報のない観測値の範囲外については、比例モデルとホッケー・スティックモデルのどちらが正しいモデルかを判断することはできません。」私もそう思いますが、それならなぜ、ホッケー・スティックモデルを採用するのですか?両方使って結果を比較すべきではないですか?

 密度効果が存在しない比例モデルについてはMSYを実現する親魚量(SBmsy)を算定できないため、ホッケースティック型の再生産関係に基づき算定されたSBmsyと比較することができません。一方、比較の結果、ホッケースティック型よりも適切と考えられる場合には、リッカー型やベバートン・ホルト型の再生産関係も適用可能です。

(2020年9月17日)

質問 34

 「ホッケー・スティック型の再生産関係(HS)を対数スケールでプロットすると、増加時期と減少時期のいずれも、そのほとんどは折れ点より低い範囲に位置しています。」ということですが、「そのほとんどは折れ点より低い範囲に位置しています。」というのは、加入量が折れ点より低いという意味ですか? 加入量が折れ点より低いということが、なぜ、HSモデルの正当性を示すことになるのか、意味が分かりません。「そのことによりマサバ太平洋系群のHSは観測値と矛盾しない結果となっています。」ということですが、意味不明です。当方が問題にしているのは、時系列の傾向です。親が増加しているときに子も増加する。親が減少しているときに子も減少する。このようなことは、密度依存に基づく再生産モデルでは起こらないのではないですか、という質問です。

 密度効果を仮定するホッケースティック型の再生産関係においても、折れ点以下の親魚量の範囲においては、親魚量と加入量の間に正の直線関係を仮定しています。つまり、折れ点以下の親魚量においては、親魚量が増えれば加入量も増えますし、親魚量が減れば加入量も減る仮定となっています。
 マイワシ太平洋系群については、増加時期と減少時期のいずれにおいても、親魚量のほとんどが折れ点より低い範囲に位置しているため、これらの時期についてはホッケースティック型の再生産関係においても、親魚量が増えれば加入量も増えますし、親魚量が減れば加入量も減る設定となっています。

(2020年9月17日)

質問 35

 スケトウダラ太平洋系群は、1981-2008年の28年間は親魚量はほぼ目標管理基準値を維持していた。この期間の平均漁獲量は20.5万トンで、MSY17.6万トンよりも16%も大きいにも関わらず、2009年以降親魚量が急増している。これはMSY理論が正しければ、このような結果にはならない。

 不確実性を考慮したMSYについては、平均的にある水準に親魚量を維持すれば、平均的にはある水準の漁獲量(MSY)が得られるという中長期的なものであり、一時的に良い加入があれば、親魚量は平均的な水準よりも短期的には増加します。
 スケトウダラ太平洋系群については、2005・2007・2009年級と、良い加入が続いたため(2005・2007年級は、30億尾を上回る卓越年級)、2010年漁期以降の親魚量が非常に高い水準となりました。

(2020年9月17日)

質問 36

 卓越年級群が発生したら、MSY理論は成り立たないということを認めていることになる(自己矛盾)。

質問35で回答済みです。

(2020年9月17日)

質問 37

 公開質問状で図で示したように、1997年から2017年の21年間の親魚量はほぼ限界管理基準値レベルで一定、その間の漁獲量の平均は5万6千トンで安定している。すなわち、MSY理論に基づけば、漁獲量の平均は5万6千トンが持続生産量ということになる。しかし、2020年以降のシミュレーション結果を見ると、漁獲量は5万6千トンよりかなり低いにも関わらず、親魚量は減少傾向を示している。これは、明らかに、MSY理論とあっていないという質問です。

 実際には高水準期と低水準期で区分した再生産関係の方が正しく、現在は高水準期にあった場合にも、MSYを実現する漁獲圧に大差がなければ、全期間を通した一つの再生産関係を選択することによる漁獲機会の損失は少ないと推測されることを示すために、「高水準期でのMSYを実現する漁獲圧は、年代を区切らない場合と大差無い」という記載を行いました。高水準期の目標管理基準値案が、年代を区切らない場合よりもさらに高い水準になることについては、あくまで情報として示したものです。

(2020年9月17日)

質問 38

 ①AICの差は2程度でその差は小さい、②高水準期と低水準期の比較が重要、③なぜ、目標管理基準値よりもさらに高い水準になるといけないのか?

 実際には高水準期と低水準期で区分した再生産関係の方が正しく、現在は高水準期にあった場合にも、MSYを実現する漁獲圧に大差がなければ、全期間を通した一つの再生産関係を選択することによる漁獲機会の損失は少ないと推測されることを示すために、「高水準期でのMSYを実現する漁獲圧は、年代を区切らない場合と大差無い」という記載を行いました。高水準期の目標管理基準値案が、年代を区切らない場合よりもさらに高い水準になることについては、あくまで情報として示したものです。

(2020年9月17日)

質問 39

 過去の再生産成功率(RPS)を用いると、過去の資源変動は再現可能である。ホッケー・スティックモデルを使うのではなく、再生産成功率(RPS)を使うべきである。

 再生産成功率(RPS)は加入量を親魚量で除したものです。そのため、過去について、各年のRPSの実測値に各年の親魚量の実測値を掛ければ、各年の加入量の実測値を完全に再現できるのは当然です。

(2020年9月17日)

質問 40

 再生産関係としてホッケー・スティックモデルを用いた場合、漁獲規制の効果が過小推定されるのではないか?(図4参照)

 質問20で回答済みです。
 なお、過去最大値を上回る親魚量における加入量をホッケースティック型よりも高く設定する場合には、目標管理基準値案も高い値となることにより、漁獲管理規則案の下で得られる回復期の漁獲量が、ホッケースティック型の再生産関係を適用するよりも増加するかは不明です。
 また、漁獲圧を定める漁獲管理規則案の下では、資源量が増えれば、それに伴い漁獲量も増えます。

(2020年9月17日)

質問 41

 入力データが異なっただけで、そのような大きな相違になるとは考えられない。入力データのどこがどのように異なったのか説明し、また、使用プログラムを提示すべきである。

 資源評価に用いたデータについてはインターネット上に公表しているため(http://abchan.fra.go.jp/digests2019/index.html)、ご参照ください。
 使用プログラムについては、水研機構にお越しいただければご覧いただくことは可能です。

(2020年9月17日)

質問 42

 (ゴマサバ東シナ海系群の2019年の資源評価について)親魚量が8.5万トン以上になると加入量が一定となるホッケーステック モデルを用いているが、親魚量が8.5万トン以上になると加入量が一定になると仮定してもよい科学的根拠を示してほしい。

 本資源のように観測値の範囲内では親魚量の増加に伴い加入量も増加するデータしか得られていないような場合については、MSYの算定が困難であり、新しい資源管理における目標管理基準値を算定するための解決策として、データの蓄積に伴って再生産関係や目標管理基準値の推定精度を向上させながら資源管理を行うことで順応的な管理ができるという考え方に基づいて、資源を効率的に活用するため、観測された親魚量の最大値を折れ点に定めたホッケー・スティックモデルを適用しています。これにより現実的な管理基準値を得ることが可能となると考えています(Ichinokawa et al. 2017, ICES. JMS 74: 1277-1287. Doi: 10.1093/icesjms/fsx002)。今後、これまでの観測値の範囲を上回る情報が得られるなどのデータの蓄積により、より適切な再生産関係、目標管理基準値を定めようと考えています。

(2025年2月10日)

質問 43

 上記のホッケーステック モデルが科学的根拠のない単なる仮定であるならば、加入量が一定となる親魚量水準として、例えば、8.5万トンの1.25倍、1.5倍、1.75倍、・・・、等の場合についても結果を示すべきだと思うが、そのような場合について結果を示す予定はないか? ないのであればその理由を説明してほしい。

 順応的管理の考え方で管理基準を設定し、管理を行いながらデータを蓄積して再生産関係や目標管理基準値を見直していくことを考えており、過去観測値の範囲を上回るような親魚量水準と加入量を任意に仮定した試算を行うといったことは予定しておりません。

(2025年2月10日)

質問 44

新しい水産資源の管理のシミュレーションにおいて、ホッケーステック モデルを用いず、親魚量が8.5万トン以上になった場合には、再生産成功率×8.5万トンで加入量を計算することが、ホッケーステック モデルを用いることに相当するという科学的根拠を示してほしい。

本シミュレーションにおける加入量は、新しい資源管理で仮定したホッケー・スティックモデルの再生産関係を用いて2003年以降の予測値を計算した上で、できるだけ実態に合うように、観測された毎年の加入変動(環境の変化の影響等)を反映させるため、実際の観測値との残差分だけ予測値から変化させて与えました。このため、毎年の再生産成功率を用いて計算される値と同様の年推移となったと思われます。

(2025年2月10日)

質問 45

 2019年8月5日に水産経済新聞に発表されたシミュレーション結果について、その計算プロセスを詳細に記述した論文はどこかに公表されているか? その論文を教えてほしい。

論文として発表しておりませんが、このシミュレーションの方法と我が国の複数の資源に適用した結果については、日本水産学会春季大会で発表しております(市野川・岡村 2019, 平成31年度日本水産学会春季大会)。

(2025年2月10日)

質問 46

そのような論文が公表されていないとすると、なぜ、公表しなかったのか? 新聞にこのような結果を公表した場合、その影響力は極めて大きく、当然、その結果が導かれた計算プロセスの詳細を公表すべきであると思うが、それをしなかった理由をお聞きしたい。

ステークホルダーからの要望に対応して仮定をおいて試算した結果を、ステークホルダーとの会合の場で説明したもので、計算プロセスの詳細の説明までには至りませんでした。機構としては、関係するステークホルダーへの参考情報の一つとして会合の場で示したもので、とくに広く公表したようなものではなかったため、計算プロセスを別途公表するということも行いませんでした。

(2025年2月10日)

質問 47

結果が捏造されたものではないかという疑念に対する回答をお願いしたい。

質問42・44で回答しましたように、得られているデータに応じて適用したモデルを使い、より実態に合うように実際の観測値を基にして計算したものであり、捏造とのご指摘はあたらないと考えております。

(2025年2月10日)