国立研究開発法人 水産研究・教育機構

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平成26年度調査結果概要

事業一覧

  1  遠洋まぐろはえなわ(太平洋中・東部海域)
  2  海外まき網(熱帯インド洋海域)
  3  沖いか釣(日本海海域)
  4  遠洋かつお釣(太平洋中・西部海域)
  5  北太平洋さんま漁業(北太平洋中・西部海域)
  6  近海かつお釣(九州周辺~三陸沖周辺海域)
  7  大中型まき網(北部太平洋海域)
  8  小型機船底びき網:久慈浜地区(茨城県沖合海域)
  9  クロマグロ種苗ひきなわ(土佐湾周辺海域)

事業ごとの調査概要

 1 遠洋まぐろはえなわ(太平洋中・東部海域)

調査船:開発丸(489トン)

調査期間:平成26年5月~平成27年3月

調査海域:太平洋中・東部海域


本調査の目的

  遠洋まぐろはえなわ漁業において,効率的な漁業生産技術及び省エネルギー技術等の開発により収益性の改善を図るとともに,環境に配慮した操業技術の開発等を行い,当該漁業の持続的発展に資する。



本年度調査の主な成果等

(1)メバチの効率的な漁獲方法の開発を目的として,超深縄操業に適した時期,水域の検討を行うため,本年度はこれまで実施していなかった8月末から9月末にかけての20°S周辺水域において,超深縄仕立てを導入して操業し,その釣獲率,生産性を調査した。釣獲率の比較は,一連のはえなわ漁具の中に通常深縄鉢(浮縄40 m)と超深縄鉢(浮縄150 m)を交互に配置する方法により,2次航海,8月下旬から9月下旬のタヒチ東方・南東及び洋心部水域において29回行った。メバチの釣獲率(尾数/1,000針)に関しては,試験水域全体では,通常2.9に対し超深縄鉢13.0であった。さらに,試験水域を南緯20°以北と以南に分けると,南緯20°以北では通常鉢4.1に対して超深縄鉢18.3,南緯20°以南では通常鉢0.5に対して超深縄鉢3.1であり,いずれも超深縄の釣獲率が高かった。また,メバチの釣獲そのものが南緯20°以北において多い結果となった。1操業あたりの生産額に関しては,試験水域全体でみると,超深縄が114.6万円,通常深縄が78.0万円となり,超深縄の方が高かった。南緯20°以南・以北別にみると,南緯20°以北では超深縄が139.8万円,通常深縄が93.8万円となり,南緯20°以南では超深縄が66.7万円,通常深縄が48.0万円となった。当該水域においては,南緯20°以北で特に生産性が高く,さらに超深縄の優位性が明かとなった。
 
(2)凍結メバチ製品の付加価値要素として最も重要な脂肪含有量について,船上で測定した脂肪含量を市場で開示販売した場合に,どのような評価を受けるのかを調べること,さらにこうした技術開発の認知度を高めることを目的とし実施した。本試験では,平成25年度第3次航海(9~12月頃)に漁獲され,船上において近赤外分光装置によって脂肪含量を測定した40キログラム上サイズのメバチ480尾を対象とした。三崎の卸売市場において,本試験販売の趣旨を仲買人 に周知した上で実施した。開示販売では1回20尾販売することとして,その内10尾は脂肪含量推定値を記載したラベルを貼り,残り10尾はそうしたラベルを貼らないこととした。販売試験の結果,生きて揚がった個体の方が死んで揚がってきた個体よりも高く評価されること,また,生死によらず脂肪含量推定値が高くなるに従い単価が上がる傾向がみられた。しかし,脂肪含量推定値ラベルの有無による販売単価の差は殆どみられず,販売単価の向上という効果は認められなかった。その後の仲買人らへの聞き取り調査の際には,否定的な意見や,関心の無いと言う意見もあった。一方で,認知度・信頼度を高めることで収益性改善の有効策になる可能性があるといった好意的な評価も得られている。

 

 2 海外まき網(熱帯インド洋海域)

調 査 船:第一大慶丸(349トン)

調査期間:10月~3月

調査海域:熱帯インド洋海域


本調査の目的

   海外まき網漁業におけるカツオ・マグロ類資源の合理的利用を図るため、熱帯インド洋海域において効率的な操業パターンについて探求するとともに、若齢マグロ類の漁獲を最小化する手法について調査する。また、まき網漁具の水中での挙動や形状について把握するためにシミュレーションについて共同研究を行う。さらに省エネルギー運航に資するため海外まき網漁船における燃料消費実態の把握に努める。



本年度調査の主な成果等


図 大目網・小目網による漁獲魚の体長組成の比較
   昨年度に引き続き,同一漁場において比較的短期間の間に目合の異なる2種類の網(300m m主体,240mm主体)による漁獲比較試験を行い,網目合が漁獲物サイズに及ぼす効果を検証した。

   大目網は身網の大部分が目合300mm(尺目)であり,その下部にさらに目合の大きい360mm(尺2寸)・450mm(尺5寸)が一部配置されている。小目網は前記大目網の8~22区の身網の大部分に240mm(尺8寸)の目合が配置されている。漁獲試験は、1月14日~2月8日は小目網で,2月12日~3月14日は大目網で,それぞれ行った。比較条件を揃えるため,放流時の情報が明らかなFADsにおいて明け方に操業した場合の結果のみを用いた。操業時,ランダムにサンプリングしたカツオ・キハダ・メバチの体長測定を行った。今年度後半の低調な漁況により,比較可能な操業数は少なく,大目網で1回の漁獲結果および小目網で2回の漁獲結果をそれぞれ合計して体長組成を比較した。大目網・小目網による漁獲魚の体長組成をカツオ・キハダ・メバチそれぞれについて図に示した。カツオについては大目網の方が30cm~35cm級の小型魚の漁獲比率がやや高く,昨年度とは反対の結果となった。キハダ・メバチは比較に供した個体数が少ないため分布が不明瞭であった。27年度も引き続きデータ数を増やし調査を継続する予定である。
 

 

   また、魚探付きブイの予測魚群量は比較的精度が高いことが明らかになった。これを利用すれば,蝟集の良いFADsら優先的に操業でき操業効率が高まるだけでなく,蝟集の悪いFADsまで航走する無駄を省き省エネルギーの観点からも有益であると考えられる。詳しくは現在も継続し調査中である。
 
図 魚探ブイによる予測トン数と実漁獲トン数の関係


 

 

 3 沖合いか釣(日本海海域)

 

調 査 船:第十八白嶺丸(183トン)  
第八十一明神丸(184トン)

調査期間:平成26年11月~平成27年2月

調査海域:日本海海域


本調査の目的

 

 

  沖合いか釣漁業を対象とし,船上灯の出力削減を実現し得る新しい漁灯利用技術を確立することにより,本漁業の収益性改善に資する。。

 


本年度調査の主な成果等

 

 

 

  いか釣漁船を2隻使用し,1隻はLED船上灯のみを点灯した状態,もう1隻はメタルハライド船上灯のみを点灯した状態で一晩ごとにそれぞれの船上灯条件を交代して操業し,両者の漁獲を比較した。まず,一方の船がLED船上灯を点灯した場合にもう一方の船ではメタルハライド船上灯を何灯点灯すれば積算放射照度が同程度になるかを計測し,積算放射照度が同程度となる状態で同時に操業し比較を行った。

 

 

(1)MH船上灯出力及びLED船上灯配光の検討

 

   光源の配光データおよび実船における光源の設置情報を元に,照明設計用の光学シミュレーションソフトによって船上灯システムの配光を推定した。また,MH船上灯と同様の海面照度分布を実現するLED船上灯の配置法を検討した(図1)。その結果に基づき,調査船1隻あたり40台のLED船上灯パネルを増設配置した。さらに,LED又はMH船上灯を点灯した調査船を岸壁に係留した状態で放射照度分布を測定した結果,操業調査及び照度分布測定のそれぞれの船におけるMH船上灯出力は,両船の船上灯に係る配電盤スイッチ配置及びMH船上灯の間引き具合を考慮に入れ,明神丸のLED船上灯33.6kW(65μW・cm-2)に対して白嶺丸のMH船上灯で16灯(48kW:60μW・cm-2),白嶺丸のLED船上灯33.6kW(66μW・cm-2)に対して明神丸のMH船上灯で20灯(60kW:62μW・cm-2)であった。
                        図1 光学シミュレーションソフト上で算出されたLED船上灯の配光例

 

(2) 光源別のスルメイカの行動・釣獲状況の把握

 

   1隻はLED船上灯のみを点灯した状態,もう1隻はMH船上灯のみを点灯した状態で一晩ごとにそれぞれの船上灯条件を交代して操業し,両者の漁獲を比較した。その結果,船別・光源別で比較すると(図2),両ペアに大きな差があったものの船別CPUEで比較すると同等の傾向を示した。統計学的検討の結果,MH船上灯での釣獲尾数に対しLED船上灯は6%劣る結果であった。
   当業船との比較では,漁獲は35~55%に留まったが,一方で,燃油消費量は69%削減された。 当業船は通常MH船上灯250kWを上限として操業を行っているが,本調査ではLED船上灯33.6kWであったため,漁船周辺の放射照度は圧倒的に低いと予測された。今後LED船上灯をさらに増設し,当業船並の放射照度として,両者を比較することによって,燃油削減効果も含めてLED船上灯の優位性が見いだせる可能性がある。
図2 船別・光源別・船及び光源別CPUE

 

 4 遠洋かつお釣(太平洋中・西部海域)

調査船:第三十一日光丸(499トン)

調査期間:平成26年5月~平成27年3月

調査海域:太平洋中・西部海域


本調査の目的

  遠洋かつお釣漁業における効率的な資源利用のため,漁場探索能力の向上及び省エネ・省コストを企図したシステムの改良等を行うと共に,南太平洋海域における採算性の高い操業形態の追求並びに,カタクチイワシ利用技術の高度化を図り,当該漁業の経営の安定と持続的な発展に資する。



本年度調査の主な成果等

 

  漁場探索能力の向上に関しては,タスマン・ニュージーランド海区において,衛星観測情報等に基づき示された中層(20m)水温図の活用の可能性を調査した。調査では,平成26年12月31日から平成27年1月14日までの15日間で412トン(満船)漁獲できた。1月上旬の漁場は中層(20m深)水温図上に水温勾配帯が認められるガスコイニ海山(図中の◆;36°S, 156°E)付近に形成され,時期が進み,暖水が東側に波及するのに応じて,東側にも良好な漁場が形成されたことを確認した。なお,旬ごとのカツオCPUEは,12月下旬が25.0トン(体重未計測),1月上旬が34.4トン(平均体重2.5kg),1月中旬が14.3トン/日(平均体重2.6kg)であった(右図)。
   活餌カタクチイワシ利用技術の高度化に関しては,夏季のフィッシュポンプによる積み込み時における溶存酸素減少の改善に取り組んだ。散気管等の既存の設備では改善できなかったが,ナノバブル技術を用いて純酸素を供給する方法で溶存酸素量の最低値を1mg/l以上高く維持することができた。積み込み後の生残率も2.6%向上した。また,船内活餌飼育への閉鎖循環飼育技術の導入についても検討し,50l水槽でカタクチイワシのアンモニア排出量を調査した結果から,水質浄化に係わる流動床を設計及び試作した。
   省エネルギーに関しては,ウェザールーティングシステム導入による省エネ効果の検証を行った。第7次航海に行った実航海での検証では,漁場との距離が近かったこと,気象及び海象が穏やかだったことから,省エネ効果を認めることができなかったが,過去の航海実績から削減効果を試算した結果,年間で約4.2klの削減となった。


 
図 中層(20m深)水温と1操業日あたり漁獲分布の組み合わせ

 

 5 北太平洋さんま漁業(北太平洋中・西部海域)

 

調査船(操業船):第三十七傳丸    (167トン)
第十一権栄丸     (199トン)
第六十三幸漁丸  (199トン)
第十八漁栄丸     (199トン)
第十一光洋丸     (199トン)

調査期間:平成27年5月~平成27年7月

調査海域:北太平洋中・西部海域(公海域)


本調査の目的

 

 

  沖合底びき網漁業を対象に,資源管理や経費削減を企図した漁具の改良や開発を行うことにより,本漁業の持続的発展に資する。


本年度調査の主な成果等

 

 

  これまでに,公海域では,運搬船を利用することで操業船の漁場滞在期間が長くなるとともに,より遠方漁場も利用でき,漁獲量増大の効果があることを明らかにし,運搬船を利用するうえで必要な漁獲物の転載や,操業船への氷や燃油の転載技術を確立した。このことを踏まえ,平成26年度調査では,主として以下の各課題に取り組んだ。

 



図 5月の海面高度と水温図
等高線は海面高度,青系色は水温
11~13℃,赤丸は漁場をそれぞれ示す。
(1)衛星情報利用による漁場探索の効率化
  これまでの調査結果から,海面高度の勾配が大きく表面水温が11~13℃の水温帯が重なった水域で好漁場が形成される傾向が示された。180°E以西の水域において,表面水温分布および海面高度分布を参考に探索を行った。海面高度の勾配や表面水温の適水温帯の張り出し状況などを指標に探索し,160~163°E付近と165~168°E付近および175~178°E付近が候補として挙げられた。5月上~中旬は38°N~41°N,166°E付近に漁場が形成された。その後,6月中旬までは161°E付近に好漁場が形成された。
(2)5隻を操業船兼運搬船とした運用の効率化
  5隻全てを操業船・運搬船兼用とし,各船の漁獲量に応じて効率的に運搬船とする方法として,漁獲量は過去の調査と比較して最高であった。しかし,主に陸上凍結製品の水揚げ期限の制約により効率的運航ができない場合等があったことが課題として残された。今後は,水揚げ期限に影響されない船上での凍結製品の生産を検討する必要がある。調査船5隻体制とした平成22年度以降の4年間で本年度の漁獲量が最高となった。漁獲量が増加した理由として,①漁場が西寄りに形成されたこと,②漁場滞在中の漁獲皆無の日の減少,③操業日数の増加の3つの要因が考えられた。
(3)凍結製品の海外市場開拓の可能性検討
   船上凍結品の生産に加え,新たに陸上の凍結設備を利用した凍結製品の生産に取り組み,また,生産した凍結製品を海外輸出に限定して販売することで海外市場における製品評価を把握した。陸上凍結製品の生産に当たり,自船で漁獲した漁獲物を3日(72時間程度)以内に水揚げしたものを対象とし,水揚げ時にその鮮度等を判断の上,輸出品としての品質に耐えるものを抽出し,加工業者等に委託してロシア向けの凍結製品を315.9トン生産した。販売価格はミール向けの2倍以上の79円であった。しかしながら,陸上における凍結加工としたために,漁獲から入港までの日数に制限があったために満船に至る前に入港せざるを得ない場合がある事や,陸上での加工費用が発生することなどから,実用化は困難であると考えられた。今後は,船上凍結製品の生産,または,洋上で運搬船等に受け渡す方法について検討する必要がある。
 

 6 近海かつお釣(九州周辺~三陸周辺海域)

 

調査船:第五萬漁丸(71トン)

調査期間:平成26年3月~平成27年3月

調査海域:九州周辺~三陸周辺海域


本調査の目的

 

 

  近海かつお一本釣漁業の主漁場である東沖において,当業船による短期操業効果を検証するとともに,漁場探索技術や漁獲物の鮮度技術の開発ならびに燃油使用量の把握を行い,効率的な操業による経営改善方法について検討する。


本年度調査の主な成果等

 

 


図1 調合水冷却と砕氷冷却の場合の魚食温度とカツオの魚体温度を比較した結果

 

(1)魚倉温度管理と市場評価の把握
  更なる高鮮度製品生産を目的に、夏場の高温期に砕氷を使用し,初期冷却効果の有効性について検討を行った。その結果,魚倉収容量は同じにも係わらず,砕氷を用いた場合の方が魚倉の調合水温は速やかに低下し,カツオ及び魚倉の初期冷却時間は短くなり、高鮮度製品生産の有効な手段と判断された(図1)。
 

 

 

(2)燃油消費量の実態把握
  近海かつお一本釣漁船の省燃費化に対する運用方法について提案するため,水産工学研究所と連携して,船内に流量計や電力積算計,動揺計を取り付け,行動別燃油消費量の情報を収集した。その結果,航海距離(往復)1000マイルでは,137トン型(20kl/航海)に比し,71トン型(13kl/航海)は燃油消費量が約30 %以上少なかった(図2)。
 
図2 137トン型船と71トン型船の航続距離の燃油消費量の比較

 

 

表1 評価アンケートの結果

 

 

(3)餌料用カタクチイワシの安定供給システムの実証化
  高知県に委託し,「天然シラスを火光利用漁業で漁獲して餌料サイズまで飼育した養成カタクチイワシ」と「採卵後餌料サイズまで飼育した養殖カタクチイワシ」と「天然カタクチイワシ」について,船上において生残状況の確認及び釣獲試験を行った。その結果,釣獲後のカツオの胃内容物を調べると,養成カタクチイワシ及び養殖カタクチイワシが天然餌と同程度確認できた。さらに,余剰分を高知県船籍の113トン型当業船に提供した。同船に対し,アンケート調査を行った結果,いずれの項目も天然活餌に劣ることはなく,天然活餌と比較して肥満度が高く,航海中の死亡が少ないという回答を得た(表1)。
 

 7 大中型まき網(北部太平洋海域)

 





調査船:第一大慶丸(349トン)

調査期間:平成26年度5月~平成26年度9月

調査海域:北部太平洋海域


本調査の目的

 

 

   北部太平洋海区の大中型まき網漁業において、漁獲対象資源への負荷低減及び収益性改善のための操業システムの省コスト化を図るとともに、地域漁業管理機関の定める規制への技術的対応を検討する。

 


本年度調査の主な成果等

 

 

 

 

  操業技術及び漁具の改良を図ることによる操業の効率化および経費の節減等の検討のため,水中におけるまき網漁具挙動の正確な把握と,まき網操業技術の可視化への取り組みを進めている。これまでの調査において,まき網漁具の水中動態シミュレーション技術(NaLA)を用いて操業中のまき網漁具の変化を捉えることに成功し,漁具の力学解析に数値シミュレーション技術が有効であることが明らかになっている。 本年度は,NaLAプログラムの再現性能をより高めるために各パースワイヤーの繰出し長を実測することで,ワイヤー繰出長の読み取り精度が向上し,シミュレーションによる網裾中央部の沈降深度及び速度と実際のそれらの一致度が向上した。今後は取得したデータを活用してまき網漁具のシミュレーションの再現性能をより高めるとともに,シミュレーション技術を用いた操業解析による操業技術の改善等についての検討を進めていく。
 
 
   大中型まき網漁業における燃油消費量の実態把握のために,主機,補機及び搭載艇への燃料供給3系統の燃料消費量データ及び船速データ等を記録した。調査期間を通じた航海中の1日あたり燃料消費量は6.16kl/日であり,内訳は,主機が平均3.88kl/日,補機が平均2.10kl/日で,搭載艇が0.18kl/日であった。さらに本年度は第9次航海以降燃料消費の見える化装置を船橋に設置し,操船者が主機燃料消費量を常に把握しながら運航することによる省エネ効果を検討した。当該装置の設置に先立ち,状況に応じた最適な主機回転数と翼角度の組み合わせの指標を得るため,第2次航海時に燃料消費試験航走を行った。本試験航走から船速10~12ノット間においては,翼角は固定にして回転数を調節することで燃料消費を抑えられる一方で,船速13ノット以上では燃料消費が急激に増加する可能性が示された。大中型まき網漁業の場合,探索や移動に従事する割合が高いため,操船者が見える化装置をモニターしながら,省エネルギーを意識した運航をすることが重要であると考えられる。
 
 
 8 小型機船底びき網:久慈浜地区(茨城県沖合海域)
調査期間:平成26年4月~平成27年3月

調査海域:茨城県沖合海域
 

本調査の目的
   茨城県久慈浜地区をモデルとして,「新操業方法の開発」,「資源の持続的利用方法の開発」及び「漁獲物の価値向上」に関する調査を行い,得られた結果を統合して,小型底びき網漁業を持続可能なビジネスとすることを目的とする。また,調査の成果を広く紹介することで,全国の当該漁業の課題解決に寄与することを目的とする。


本年度調査の主な成果等
(1)新操業方法の開発
  平成25年度の当業船への便乗調査で得られた漁具特性に基づき,漁具作成検討委員会において,選別機能を有する軽量型底びき網漁具の仕様を検討した。新たな漁具のコンセプトとして,当業船の主機関回転数の60%に相当する1,100rpmで曳網速力2.5ktを基準とした。網口高さは,ヤリイカや底魚類等,多種多様の魚種を漁獲対象とするため,3mとした。身網部の構成は抵抗を減ずるため従来よりも目合を大きくするとともに,網糸の太さを細くした。オッターボードも従来型の80%の面積とした。以上の構成として,縮尺率1月8日,1月15日の模型網による水槽実験を行い,漁具の最終仕様を検討した。

 

(2)資源の持続的利用方法の開発

 

  平成25年度に引き続き,久慈浜地区小型底びき網漁船の漁獲物の利用状況の調査, 漁場利用実態調査,底魚類推定現存量把握と分析,漁獲物品質評価試験の4項目について茨城県に委託して調査を行った。震災以降,ヤリイカ主体の操業が行われてきたが,当該年度の漁獲状況は低水準であった。一方で,他の有用魚種の水揚げは堅調であったことから,単一資源に依存せずとも安定した操業の可能性が示唆された。底魚現存量把握と分析の結果では,対象種,操業水深及び時期によっては,日中操業が適していると判断される場合が多くあり,今後更なる解析が必要である。漁獲物の品質評価試験では,魚種によって保管手法が異なることが示唆された。今後は,魚種毎に最適な漁獲管理手法を検討することとしている。

 

(3)漁獲物の価値向上

 

  平成25年度に引き続き,一般社団法人海洋水産システム協会に委託して調査を実施した。これまでの調査によって,久慈浜地区小型底びき網漁船の漁獲物の流通実態や消費実態の他,これに係る漁業関係者の位置関係も明らかとした。また,これらの漁獲物が水揚げされる久慈町地方卸売市場において,漁獲物の品質を維持向上させるために,同市場での流通工程において約50箇所に及ぶ衛生調査を行い,漁獲物の床直置きや魚カゴの汚れ等,複数の流通工程で品質・衛生管理に関わる問題箇所を明らかにし,これを契機に漁獲物の選別作業を土間置きではなく,パレット上で行うことが漁業者のみならず仲買・加工関係者にも浸透しつつあり,衛生管理への概念が高まった。最終的には,当該地区底びき漁船の漁獲物の価値を向上させるには,漁業者,流通,加工,販売に携わる関係者が一堂に会して議論をする場としての協議会を整備する必要があることから,各団体の連携による流通販売対策協議会のような組織を設立して運営していくことを目指すこととしている。
 
 
 9 クロマグロ種苗ひきなわ(土佐湾周辺海域)
調査船:徳漁丸(4.9トン)
久漁丸(6.1トン)
清丸(7.3トン)

調査期間:平成26年8月

調査海域:土佐湾周辺海域


本調査の目的

 

  用船調査を通じて,‘ひきなわ’操業による釣獲から生簀への活け込みまでのクロマグロ幼魚(以下,ヨコワ)の生残実態を把握し,生残率改善要素の洗い出しを行う。さらに,得られたデータを基に,当該資源の有効活用及び‘ひきなわ’漁業者の収益改善に資するための生残率向上に向けた漁具改良と操業技術開発の可能性を検討する。

 


本年度調査の主な成果等

 

 

 

  調査期間中,ヨコワは95尾採集された。釣獲された魚体サイズは,尾叉長17~31cm,重量80~450gであった(図)。釣獲時における死亡個体数は0尾であったが,船内活魚水槽内での死亡個体数は6尾,業者判断による除外(死亡とみなす)個体数は8尾で,全体の生残率は85.3%であった。船内活魚水槽内における死亡については,赤目(充血),内部出血や釣獲時のストレスが要因と推測された。業者生簀活け込み時には,赤目(充血),腹部の擦り傷,釣り針による口切れなどの口(主上顎骨)の損傷具合が除外(死亡)要因であった。専用の補機関による換水のため,操業時の水温と船内活魚水槽内水温はほぼ同一であり,また海水も常に循環しているので,死亡要因として急な水温変化や酸欠は考えにくかった。また,釣獲される魚体サイズと死亡率について関連性は見られなかった。 前述のとおり,主な死亡要因は釣獲時の負荷やストレスと推測され,釣り針による傷,釣り上げまでの曳航による負荷やストレスが要因となり,運搬用バケツ内で吐血するヨコワも見られた。これらの個体が活魚水槽内で死亡することも多く,釣獲時の負荷の軽減が理想であると思われる。しかし,現状においても,漁業者は釣獲時の負荷軽減に向けた取り組みを行っており,現行の仕掛け及び操業方法の微修正による改善余地は大きくないと考える。一方で,今回は釣獲が少なかったが,同時に多くのヨコワが水揚げされた場合,釣獲から活け込み時の手当てが雑になることや,業者の活け込み判定が厳しくなることも考えられることから,釣獲尾数と生残率の関係についてのデータは必要であると考える。