平成25年度調査結果概要
■事業一覧
1 遠洋まぐろはえなわ(太平洋中・東部海域) |
2 海外まき網(熱帯インド洋海域) |
3 沖合いか釣(日本海海域) |
4 遠洋かつお釣(太平洋中・西部海域) |
5 沖合底びき網(日本海西部海域) |
6 北太平洋さんま漁業(北太平洋中・西部海域) |
7 ひきなわ:タチウオ(豊後水道周辺海域) |
8 近海かつお釣(太平洋中・西部海域) |
9 大中型まき網(北部太平洋海域) |
10 小型機船底びき網:久慈浜地区(茨城県沖合海域) |
■事業ごとの調査概要
1 遠洋まぐろはえなわ(太平洋中・東部海域)
|
調査船:開発丸(489トン)
調査期間:5月~翌年3月
調査海域:太平洋中・東部海域 |
本調査の目的
遠洋まぐろはえなわ漁業において,効率的な漁業生産技術及び省エネルギー技術等の開発により収益性の改善を図ると ともに,環境に配慮した操業技術の開発等を行い,当該漁業の持続的発展に資する。
本年度調査の主な成果等
メバチ釣獲率向上の可能性を検討するため,一連のはえなわ漁具の中央部に“超深縄(浮縄150m+水中ライト鉢)”と“通常深縄鉢”を各40鉢配置し,それぞれの鉢におけるメバチの釣獲率を調べるとともに,その結果と直近の販売実績から1操業あたり生産額を試算した。操業調査は,6月中旬から7月上旬,2月上旬~2月下旬のジョンストン沖,及び8月下旬から9月中旬,11月中旬から12月上旬のタヒチ東方・洋心部において,合計75回実施した。メバチの釣獲率は,6月中旬から7月上旬のジョンストン沖を除き,超深縄鉢の方が高く,特に11月中旬から12月上旬のタヒチ東方・洋心部ではその傾向が顕著であった。生産額の比較では,6月中旬から7月上旬にかけてのジョンストン沖および8月下旬から12月上旬のタヒチ東方・洋深部における1操業あたりの生産額を試算し,比較した結果,タヒチ東方・洋心部では超深縄が62万円,通常深縄が50万円となった。一方,ジョンストン沖では,超深縄70万円,通常深縄が90万円であった。超深縄操業はメバチを効率的に漁獲できる手法ではあるが,漁場に合わせて用いる必要がある。 遠洋まぐろはえなわ漁業が抱える問題のひとつに,小型歯鯨類による食害被害がある。そこで食害被害回避のために,2種 類の“イルカ避け”発信器〔DDD(Dolphin Deterrent Device):高圧音でランダムな周波数の音波を常時発信して慣れを防ぐ特徴を有する発信器)とDID(Dolphin Interactive Device):小型歯鯨類のクリック音を感知した際に,音波を突然発信させることで驚愕させ,音への緩和効果を高める特徴を有する発信器〕を用いた食害回避効果の検証試験を2月下旬~3月中旬に21回,ジョンストン沖で実施した。21回の試験操業中,12回の操業で食害が発生し,115個体が食害にあった。DDDを6鉢連続取り付けした箇所での食害は皆無であった。DIDに関しては,取り付け本数に関わらず,食害個体数は1個体ずつのみであった。また,試験期間を通じて,多くの食害が発生したものの,漁獲が皆無となる操業は見られなかった。今後は,さらに詳細に解析・検討を進める予定である。
================================================================================================ |
2 海外まき網(熱帯インド洋海域)
|
調 査 船:第一大慶丸(349トン)
調査期間:10月~3月
調査海域:熱帯インド洋海域 |
本調査の目的
海外まき網漁業におけるカツオ・マグロ類資源の合理的利用を図るため、熱帯インド洋海域において効率的な操業パターンについて探求するとともに、若齢マグロ類の漁獲を最小化する手法について調査する。また、まき網漁具の水中での挙動や形状について把握するためにシミュレーションについて共同研究を行う。さらに省エネルギー運航に資するため海外まき網漁船における燃料消費実態の把握に努める。
本年度調査の主な成果等
一般に網漁業おいて目合を大きくすることは小型魚の漁獲回避に有効な手段であると考えられている。しかし,かつお まぐろ類を対象とするまき網漁業では大目網を用いることが小型魚漁獲回避にどの程度寄与するかは十分明らかになっ ていない。そこで,同一漁場において比較的短期間に目合の異なる2種類の網で漁獲試験を行い,網目合が漁獲物サイ ズに及ぼす効果を検証した。大目網は身網の大部分の目合は300mmであり,その下部にさらに目合の大きい360mm及 び450mmが一部配置されている。小目網は前記大目網の8区~22区を他の網のそれと入れ替えたものであり,8~22区 の身網の大部分は240mmの目合が配置されている。図に大目網・小目網による漁獲サイズ組成をカツオ・キハダ・メ バチそれぞれについて示した。キハダについてはピークがかならずしも明瞭ではないが,カツオ・メバチについては小 目網での30cm台の漁獲が大目網よりも高い傾向が認められた。 データ数は少ないものの,目合の異なる二種類の まき 網漁具による漁獲サイズの組成の違いは比較的明瞭であり,大目合による小型魚逃避の可能性を示唆するものと考えら れる。今後はこのことを裏付けるため操業回数を重ねデータを蓄積する必要がある。 測定尾数
大目網(操業5回):カツオ1566 キハダ154 メバチ136
小目網(操業3回):カツオ1212 キハダ156 メバチ397
図 大目網・小目網による漁獲サイズ組成 |
================================================================================================
3 沖合いか釣(日本海海域)
調 査 船:第十八白嶺丸(183トン)第八十一明神丸(184トン)
調査期間:11月~2月
調査海域:日本海海域 |
本調査の目的
沖合いか釣漁業を対象とし,船上灯の出力削減を実現し得る新しい漁灯利用技術を確立することにより,本漁業の収益性改善に資する 。
本年度調査の主な成果等
いか釣漁船を2隻使用し,1隻はLED船上灯のみを点灯した状態,もう1隻はメタルハライド船上灯のみを点灯した状態で一晩ごとにそれぞれの船上灯条件を交代して操業し,両者の漁獲を比較した。まず,一方の船がLED船上灯を点灯した場合にもう一方の船ではメタルハライド船上灯を何灯点灯すれば積算放射照度が同程度になるかを計測し,積算放射照度が同程度となる状態で同時に操業し比較を行った。
(1) LED船上灯とメタルハライド船上灯の照度分布の違いの把握
従来のMH船上灯とこれまでに開発されたLED船上灯の作り出す光環境の差異を陸上計測により確認した。両船のMH船上灯出力を決定するための測定点を船体中央から真横に50mの位置とし,その点にて数回計測し,LED船上灯及びMH船上灯の放射照度の平均積分値を求めた。積分する波長範囲はスルメイカの視感度特性及び現行のMH灯波長範囲に合わせ350nm~650nmとした。その結果,操業調査及び照度分布測定のそれぞれの船におけるMH船上灯出力は,両船の船上灯に係る配電盤スイッチ配置及びMH船上灯の間引き具合を考慮に入れ,明神丸のLED船上灯23kWに対して白嶺丸のMH船上灯で20灯(60kW),白嶺丸のLED船上灯27.5kWに対して明神丸のMH船上灯で16灯(48kW)であった。
2) 環境の差異がスルメイカの行動や釣獲に与える影響の把握
メタルハライド船上灯とLED船上灯のそれぞれを用いた操業において,海況条件別に,船体動揺,船体周辺の光環境,スルメイカの行動と漁獲をそれぞれ計測・観察し,光源間の光環境の違いがスルメイカの漁獲に与える影響を検討した。 光源間での釣獲状況を比較すると,全体比較ではMH船上灯操業に比べLED船上灯操業でのCPUEが低い傾向を示したが,船上灯条件ペア別の比較,あるいは,海況別・船上灯条件別・調査船別CPUEの比較では異なった結果も出ており,条件によってはLED光がメタルハライドと遜色ない可能性も示唆された。また,設置位置の違いによりLED光の海面への照射範囲・量や船体動揺による光の変化に差が生じ,その差によって船体周辺に集群したスルメイカの行動に違いを与えている可能性も考えられた。
図1 MH船上灯及びLED船上灯の放射照度分布の例
================================================================================================
4 遠洋かつお釣(太平洋中・西部海域)
|
調査船:第31日光丸(499トン)
調査期間:9月~3月
調査海域:太平洋中・西部海域 |
本調査の目的
遠洋かつお釣漁業における効率的な資源利用のため,漁場探索能力の向上及び省エネ・省コストを企図したシステムの改良等を行うと共に,南太平洋海域における採算性の高い操業形態の追求並びに,カタクチイワシ利用技術の高度化を図り,当該漁業の経営の安定と持続的な発展に資する。
本年度調査の主な成果等
衛星情報等の活用に関しては,タスマン・ニュージーランド海区では,12月中旬以降にカツオ漁場が形成され,昨年度の再現性を確認することができた。タスマン・ニュージーランド海区における旬ごとのカツオCPUEは,12月上旬が1.8トン(2.0kg下:体重未測定のため銘柄表示),12月中旬が17.7トン/日(平均体重1.9kg),12月下旬が9.8トン/日(平均体重2.3kg)で,ガスコイニ海山(36°S, 156°E)付近に水色3~4(クロロフィル濃度0.094mg/l~0.190mg/l)に相当する水域と中層(20m深)水温図上の水温勾配帯が重なった12月中旬以降のカツオCPUEが高いことを確認した 。
餌料用カタクチイワシの安定供給に関しては,養殖及び養成(畜養)カタクチイワシの大量生産技術とハンドリング技術の開発を行った。養殖カタクチイワシについては,カタクチイワシの生物特性を明らかとし,水温調整等による親魚養成を行うことで,大量採卵が可能となった。養成カタクチイワシについては,採捕,移送,養成(畜養)及び出荷までの養成カタクチイワシを生産するための一連の作業が可能であることを確認した。また,これらの養殖及び養成カタクチイワシを実操業で使用し,天然カタクチイワシと遜色なく利用できることを確認した。
ハンドリング技術については,フィッシュポンプによる移送規模の拡大を図り,昨年度と同様に作業人員の削減及び生残率の向上を再現することができた。 カタクチイワシの適正飼育に関しては,これまでの取り組みで得られた船上での適正な飼育条件(水温20℃,有害アンモニア濃度0.48ppm以下,DO4mg/L以上)に基づき,日本近海海区での操業調査において飼育試験を実施した。飼育水温を上げることによって,飼育海水冷却用の冷凍機の負荷を軽減できたことに加え,漁場水温と飼育水温が一致した場合に冷凍機を約198時間停止することができた。これらによる燃料消費削減効果は1航海あたり約9.3klと試算された。
|
|
図 漁獲分布と衛星情報の組み合わせ
=================================================================================================
5 沖合底びき網(日本海西部海域)
|
調査船:大正丸(85トン)
調査期間:4月~10月(禁漁期間である6月~8月を除く)
調査海域:日本海西部(主に隠岐諸島周辺および隠岐諸島西方海域) |
本調査の目的
沖合底びき網漁業を対象に,資源管理や経費削減を企図した漁具の改良や開発を行うことにより,本漁業の持続的発展に資する。
本年度調査の主な成果等
(1) 過去2か年の調査では,ズワイガニを海中で排出させるための開口部を網口付近に設けた混獲回避漁具を開発した。本年度はグラウンドロープ周辺の基本構造が異なる吊り岩方式の魚網(さかなあみ)に対応するために開口部をコッドエンド手前に設けた漁具を開発して操業を行い,ズワイガニ,アカガレイ,ハタハタおよびクロザコエビに対する選別性能の評価と効果の実証を行った。
(2) 混獲回避漁具の選別性能に影響を及ぼす開口部周辺の3つの仕様(コッドエンドから開口部までの距離,開口部の断面積,開口部の角度)を変更しながら操業を行った。その結果,吊り岩方式の魚網の混獲回避漁具については,ズワイガニの排出割合が62.7%となった時に,アカガレイ,ハタハタおよびクロザコエビの逃避割合はそれぞれ5.2%,4.2%および20.0%となった。カニカレイ網の混獲回避漁具に関しても十分な選別性能が得られ,ズワイガニの排出割合が59.0%となった時に,アカガレイの逃避割合は6.4%であった。
(3) 吊り岩方式の魚網の混獲回避漁具のコッドエンドおよびカバーネットに入網したアカガレイの体長測定を行った結果,開口部から逃避するアカガレイに関しては,小型個体の逃避割合が比較的高く,大型個体の逃避はやや少ない傾向が見られた。
(4) 吊り岩方式の魚網の混獲回避漁具により排出されるズワイガニの甲幅サイズの測定を実施した結果,雌雄間および甲幅サイズの違いによる排出割合の差は生じなかった。そのため,ズワイガニ禁漁期における操業での混獲回避漁具の使用に際しては,雌雄や甲幅サイズの違いに偏りなく排出することが可能であると思われる。
(5) 吊り岩方式の魚網の混獲回避漁具のカバーネットを取り外し,開口部を開いた状態と閉じた状態での交互操業を実施することより,ズワイガニ混獲回避漁具を実証した。混獲回避漁具のズワイガニの入網重量は通常網の5割程度で,混獲回避漁具の効果が実証された。また,アカガレイ,ハタハタおよびクロザコエビに関しても,カバーネットを装着して得られた選別性能と大きな違いは生じなかった。なお,クロザコエビの逃避割合はやや高いものの,年間を通じた魚種別の水揚げ金額を考慮した場合,クロザコエビの逃避による水揚げ金額の減少は最大で1%程度であった。
=================================================================================================
6 北太平洋さんま漁業(北太平洋中・西部海域)
|
調査船(操業船):第一恵比須丸(199トン)
第十一権栄丸(199トン)
第六十三幸漁丸(199トン)
第十八漁栄丸(199トン)
第十五三笠丸(169トン)
第十五三笠丸 (169トン)
調査期間:5月20日~7月31日
調査海域:北太平洋中・西部海域(公海域) |
本調査の目的
北太平洋のサンマ資源を対象とし,公海漁場を活用した北太平洋さんま漁業の漁期拡大によって当該漁業の経営の改善に資する。
本年度調査の主な成果等
(1)平成19年度から,現行漁期より前の公海域におけるサンマ漁場開発調査を実施している。これまでに,公海域でもサンマ操業は可能であるが,漁場が遠いこと,広範囲に魚群が分散すること,近海域に比して灯付きが悪いことのそれぞれに対応する必要があることが明らかとなった。これらのうち,漁場の遠さへの対応としては,運搬船を利用することで操業船の漁場滞在期間が長くなるとともに,より遠方漁場も利用でき,漁獲量増大の効果があることを明らかにした。また,運搬船を利用するうえで必要な漁獲物の転載や,操業船への氷や燃油の転載技術を確立した。
以上を踏まえ,本年度調査では,主として以下の各課題に取り組んだ。
① 広範囲に魚群が分散することに対応するための衛星情報利用技術の開発
② 灯付きの悪さに対応するための水中灯利用技術の開発
③ 朝夕操業の可能性の検討
④ 運搬船利用技術開発の一環として,5隻を操業船兼運搬船とした運用方式の試行
(2)効率的な漁場探索手法の開発については,前年度に引き続き表面水温情報と海面高度情報の利用可能性を検討し,6月頃には海面高度からみた暖水渦とこれまでサンマ漁場の探索指標としてきた11~14℃の暖水の北への張出し位置とが重なる場合に好漁場となる傾向がみられ,指標としての有効性が伺えた。しかし7月以降は,11~14℃の暖水の北への張出しが北上したのに対し,暖水渦は時期の経過に伴う移動が少なく暖水の北への張出しと暖水渦の重なる水域において操業機会はなかった。
(3)公海域の魚群特性に対応したLED水中灯の利用技術については,水中灯を用いた集魚ブイの開発可能性を検討した。水中灯の出力とサンマ魚群の誘導効果の関係を調べた結果,LED水中灯による魚群の誘導は,出力1kW及び2kWでは可能だが,600Wでは困難であった。(図1)
(4)朝夕操業の可能性検討については,操業機会が少ないことに加え,こうした操業による1網当たりの漁獲量も少なかったことから,朝夕操業による大幅な漁獲量の増加の可能性は低いと考えられた。
(5)運搬船の利用技術については,5隻全てを操業船・運搬船兼用とした運搬船ローテーション方式を試行したところ,調査船5隻体制とした平成22年度以降の4年間で漁獲量が最高となった。漁獲量が増加した理由として,①入港時の積載量の増加(効率的な漁獲物の運搬),②漁場滞在中の漁獲皆無の日の減少,③操業日数,の増加の3つの要因が考えられた。
==================================================================================================
7 ひきなわ:タチウオ(豊後水道周辺海域)
調査船:調査船:幸漁丸(4.2トン)
用船期間:8月~11月
調査海域:豊後水道周辺海域 |
|
本調査の目的
沿岸域における漁船漁業について,資源状態を把握しつつ経費の削減と漁獲物の単価向上による収入増を実現し,資源を持続的に利用しながら収益性の改善と経営の安定化を図る。本年度は,昨年度に引き続き大分県臼杵地区のタチウオひきなわ漁業を対象に当該漁業の経営改善と持続的発展に貢献する調査を行う。
本年度調査の主な成果等
(1)大型擬似餌の効果検証
平成24年度調査で開発した大型擬似餌(以下,6インチとする)の資源保護効果と経済効果(経費を考慮した水揚げ金額の増減)を検証した。ここでは,大型擬似餌を用いた6インチイカナゴ併用仕掛け(以下,6イカとする),全6インチ仕掛け,及び臼杵の従来仕掛けについて,加入量あたり銘柄別漁獲尾数,及び操業経費(餌代,仕掛け代等)を考慮した水揚げ金額を推定した。大型擬似餌を用いた仕掛けは,総漁獲尾数では従来仕掛けに及ばないものの,単価の高い大型銘柄がより多く漁獲されると推定された。経費を考慮した水揚げ金額では,6イカは従来仕掛けを上回り,全6インチでも従来仕掛けの95%の水揚げ金額が得られると推定された。これらのことから,6インチを用いることで,小型魚の保護と水揚げ金額確保を両立できることが示された。
|
|
加入量あたり仕掛け別銘柄別漁獲尾数 |
経費減額後の水揚げ金額 |
(2) 水産総合研究センターが2009年に提唱した水産システムの考えに基づき,「資源モデル」,「経費モデル」,及び「流通モデル」を統合したモデルを開発した。モデルでは,様々なシナリオによる将来予測を実施し,資源の持続的利用,経営の維持・安定等の目標を実現する操業,流通戦略を提唱可能とした。
モデルの概念図
=================================================================================================
8 近海かつお釣(太平洋中・西部海域)
|
調査船:第五萬漁丸(137トン)
調査期間:4月~10月
調査海域:太平洋中・西部海域 |
本調査の目的
近海かつお一本釣漁業の主漁場である東沖において,当業船による短期操業効果を検証するとともに,漁場探索技術や漁獲物の鮮度技術の開発並びに燃油使用量の把握を行い,効率的な操業による経営改善方法について検討する
本年度調査の主な成果等
1) 漁場探索技術の向上
速やかに漁場を発見するため,時期別,海域別のカツオ及びビンナガの漁場探索に適した海鳥の有効活用について検討した。その結果,日本近海ではオオミズナギドリがカツオ魚群探索の有用種であることが明らかとなった(図1)。
図1鳥付き操業の海鳥構成
2) 魚倉温度管理と市場評価の把握
初期冷却時間に着目し,従来の冷却方法を用いた場合の市場評価(当業船の単価も含む)の関係について把握するとともに,短期操業に見合った冷却方法について検討した。その結果,気仙沼市場では,従来の冷却方法で持ち帰った製品よりも初期冷却時間を早めた製品の方が市場評価は高まり,2日目以降に漁獲したカツオの平均単価が当業船より高かった(図2)。
図2 第五萬漁丸と当業船のカツオ銘柄別水揚物の価格比較
3)燃油消費量の実態把握
水産工学研究所と連携して,船内に流量計と電力積算計,動揺計を設置し,近海かつお一本釣漁船の燃油消費実態を把握した。その結果,漁場が比較的近い南西諸島海域および房総・小笠原海域の航海では,燃油消費量は5~10kL/航海であるのに対し,常磐・三陸海域では20kL/航海を越えていた。航走距離と燃油消費量はほぼ比例(図3)することから,近海かつお一本釣り漁船の低燃費操業に向けて効率的な漁場探索(漁場選択)が重要となることが明らかとなった。
図3 航海ごとの航海距離に対する燃油消費量の関係
================================================================================================
9 大中型まき網(北部太平洋海域)
|
調査船:第一大慶丸(349トン)
調査期間:5月~9月
調査海域:北部太平洋海域 |
本調査の目的
北部太平洋海区の大中型まき網漁業において、漁獲対象資源への負荷低減及び収益性改善のための操業システムの省コスト化を図るとともに、地域漁業管理機関の定める規制への技術的対応を検討する。
本年度調査の主な成果等
操業技術及び漁具の改良を図ることによる操業の効率化および経費の節減等の検討のため,水中におけるまき網漁具挙動の正確な把握と,まき網操業技術の可視化への取り組みを進めている。この技術の核となるまき網漁具の水中動態シミュレーション技術(NaLA)は北海道大学高木教授(元近畿大学)と日東製網,古野電気が所有していることから,4者での共同研究を進めている。これまでの調査において,NaLAプログラムを用いて操業中のまき網漁具の変化を捉えることに成功し,漁具の力学解析に数値シミュレーション技術が有効であることが明らかになっている。一方で,NaLAプログラムの再現性能をより高めるためには,入力データであるまき網の各ワイヤーの詳細変化や各操業段階のタイミングの正確な測定が不可欠となった。そこで,本年度は,各操業段階の詳細な時系列データの収集を行った。さらに,GPSロガー,小型深度計,加速度ロガー等を使用して,まき網操業時の本船,作業艇(1号艇)及び浮子綱の位置変化,網裾及び中網の深度変化,パースワイヤーの繰出長の詳細変化を記録する手法を開発し,それらの手法を用いてデータ収集を行った。加えて,網成りに大きく影響を及ぼすと考えられる潮流データに関しても,本船の潮流計から収集した。この結果,各操業段階の詳細な時系列データとともに,浮子綱の位置変化,網裾の深度,中網の深度及びパースワイヤーの繰出長の詳細変化を連続記録することができるようになった。今後は取得データ精度の向上および,取得したデータを活用してまき網漁具のシミュレーションの再現性能をより高めるべく検討を進めていく。
大中型まき網漁業における燃油消費量の実態把握のために,主機,補機及び搭載艇への燃料供給3系統に燃料流量計を取り付け,燃料消費量データを収集した。主機および補機については記録ロガーに接続して連続的に記録した。行動状況毎の燃料消費データの比較のため,主機の燃料消費量については,本船に設置した小型GPSロガーで船速データ等を収集するとともに,主機回転数及び翼角度等についても1時間毎に記録した。調査期間を通じた航海中の1日あたり燃料消費量の内訳は,主機が平均5.23kl/日,補機が平均2.24kl/日で,搭載艇が0.18kl/日であった。大中型まき網漁業の場合,主機で消費される燃料消費量が多く,探索や漁場との往復航海等における減速航行等が省エネルギー方策のひとつとなり得ると考えられた。今後は行動状況別の燃料消費特性を詳細に解析し,具体的な省エネルギー方策を検討していく。
※浮子網の区分は投網が始まる魚捕側から数えた値
網裾及び中網の沈降状況の一例
================================================================================================
10 小型機船底びき網:久慈浜地区(茨城県沖合海域)
調査期間:平成25年4月~平成26年3月
調査海域:茨城県沖合海域
図1 調査海域
本調査の目的
茨城県久慈浜地区をモデルとして、「新操業方法の開発」、「資源の持続的利用方法の開発」及び「漁獲物の価値向上」に関する調査を行い、得られた結果を統合して、小型底びき網漁業を持続可能なビジネスとすることを目的とする。また、調査の成果を広く紹介することで、全国の当該漁業の課題解決に寄与することを目的とする。
本年度調査の主な成果等
(1)新操業方法の開発
選別機能を有しつつかつ、軽量型の新しい漁具の開発を行うことを目的としている。具体的な仕様を検討するために漁具研究者、漁具設計者、漁労専門家、資源専門家からなる漁具作成検討委員会を組織した。当地区には底魚類を対象とする魚網とそれよりも大型の規模でヤリイカを主対象とするイカ網の2種類の漁具が存在する。当該委員会の議論に基づき、先ずは、当業船が使用している漁具の特性を把握するために、4回当業船に便乗し、水中カメラ、漁網監視装置(PI50)を導入して曳網中の漁具の挙動の把握に努めた。イカ網では、曳網中の抵抗が大きくなりワープ長600mで既にバランスを崩している可能性が示唆される等、軽量型漁具を検討するに当たり貴重な情報を収集した。
(2)資源の持続的利用方法の開発
茨城県に委託して調査を実施した。久慈浜地区小型底びき網漁船が対象とする漁獲物組成や漁場利用の実態把握、底魚類推定現存量の把握と分析の3項目について調査を行った。漁獲物組成では、茨城県の漁獲統計システムと市場伝票等から、水揚げ量に影響を受けやすい魚種や季節による価格変動が大きい魚種や年間を通して価格変動が少ない魚種等、主要魚種別に特徴があることが明らかとなった。底魚現存量把握試験では、茨城県水産試験場が平成15年度から実施している底魚資源調査から推定された現存量と漁獲量などの関係や漁場利用実態把握試験の結果より、当該地区の主要魚種であるアオメエソ(メヒカリ)、ヤナギダコについては、季節別、水深別、水温別の分布特徴が見られる一方で、現存量把握試験では、水深200m帯に調査定点がないことから今後これらの分布や現存量の把握のためにも水深200m地点の調査データの追加の必要性が示された。
(3)漁獲物の価値向上
一般社団法人海洋水産システム協会に委託して調査を実施した。久慈浜地区小型底びき網漁船の漁獲物の流通実態の把握、顧客ニーズの把握、久慈町漁協市場における品質・衛生管理の実態把握の3項目について調査を実施した。 流通実態把握試験では、久慈町漁協や水産加工組合などから聞き取り調査を行い、漁獲物の具体的な流通経路を整理した。顧客ニーズの把握では、地元で魚を取り扱う水産加工組合、久慈町漁協自営の日立おさかなセンター出店者、消費者、日立市料飲業組合傘下の飲食店に対しそれぞれアンケート調査を実施した結果、久慈浜産魚介類を日立おさかなセンターを核として日立市内外への普及の促進の可能性が示された。品質・衛生管理では市場内の衛生の高度化を推進させることとして、市場関係者間で検討を行っていく必要がある。
==================================================================================================