国立研究開発法人 水産研究・教育機構

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東北地方におけるサケ漁業と増殖事業の復旧状況

平成23年10月26日
独立行政法人水産総合研究センター

 

 水産総合研究センターは、東北地方の秋サケの漁期が始まったことを機に、東日本大震災で被災した地域におけるサケ漁業および増殖事業の復旧状況と今後の見通しについて、岩手県、宮城県、福島県、(社)岩手県さけ・ます増殖協会、岩手県定置漁業協会、水産加工流通業者等を通じて得られた情報に基づき取りまとめました。

1.サケ漁業の状況

(1)親魚の来遊予測

 岩手県、宮城県及び水産総合研究センターの漁期前の予測では、今年度の太平洋沿岸へのサケ来遊数は昨年度に比べ増加を見込んでいました(岩手県沿岸:前年比7%増、宮城県沿岸:前年比57%増、北海道から茨城県までの太平洋沿岸:前年比20%増)。

 しかしながら、9月30日時点において、北海道の来遊数の実績は前年同期の約83%に留まっており、特に太平洋岸の落ち込みが前年同期の69%と顕著です。加えて青森県の太平洋沿岸の来遊数も低水準(前年同期比73%)であることから、今後回帰のピークを迎える岩手県と宮城県でも来遊数が予測を下回り、前年以下となる可能性があります。

(2)海面漁業の復旧状況

 秋サケは昨年度、岩手県沿岸17千トン、宮城県沿岸で5千トンが漁獲されています。

 岩手県の秋サケの漁獲を担う定置網は、9月30日までに135ヶ統のうち40ヶ統(30%)が操業中であり、今年の秋サケ漁期中には84ヶ統(62%)が再開する見込みです。  宮城県では、主に刺し網と定置網で秋サケが漁獲されています。今年度、刺し網漁業は211隻のうち109隻(52%)が操業を再開する見込みです。定置網は、10月4日時点では305ヶ統のうち23ヶ統(8%)の再開に留まる見通しでしたが、10月20日時点では塩釜地区だけで20ヶ統の操業が確認されており、復旧が進んでいる様子がうかがえます。

(3)漁獲状況

 岩手県における10月10日までの沿岸漁獲量は236トン(前年同期比51%)ですが、前年度並の水揚げを記録した市場も数カ所認められます。

 宮城県における9月30日までの沿岸漁獲量は約76トン(前年同期比82%)となり、気仙沼地区では前年比125%の水揚げが記録されています。

(4)加工流通の復旧状況

 地域によっては、加工流通業が十分な復旧に至っておらず、厳しい状況におかれています。  一方で、水産総合研究センターが岩手県(宮古、釜石)および宮城県(気仙沼、南三陸、石巻、塩釜)において調査した結果、現時点における両県の秋サケの処理能力(主に、フィレ、イクラ、ミール加工)は、約37千トンに達すると推定されました。これは両県の沿岸と河川における昨年度の来遊量の合計25千トンを上回り、マクロで見ると復旧に向けた関係者の取組が進んでいる状況も伺われます。

2.サケ増殖事業の状況

(1)河川における親魚捕獲の状況

 岩手県では、昨年同様27河川において捕獲が実施される見込みです。岩手県における10月10日までの河川での捕獲数は25千尾(前年同期比55%)となっていますが、現時点で前年度並みの捕獲数を達成するところまで復旧した河川も認められます。

 宮城県では、昨年同様17河川において捕獲が実施されます。なお、被災した7河川の捕獲施設においても復旧を行い、捕獲を実施する予定です。宮城県における9月30日までの捕獲数は911尾(前年同期比218%)となっています。  福島県では、10河川の内、5河川で捕獲が行われる予定です。なお、河川捕獲数については、情報を入手することが出来ませんでした。

(2)ふ化放流の状況

 岩手県内の28ふ化場のうち、今年度は22ふ化場で種苗生産や放流を実施できる見通しですが、6ふ化場ではふ化放流を休止する予定です。このため、今年度の放流数は最大で3~3.3億尾と推定され、H20年度の放流数4.4億尾の約75%となることが見込まれています。なお、10月10日までの採卵数は1,192万粒で、前年同期比44%となっています。

 宮城県内の17ふ化場の全てが、今年度も放流を実施する予定です。但し、3ふ化場では種苗生産を行わず、稚魚を他のふ化場から譲り受けて放流する計画です。この結果、生産状況等により変動はありますが、今年度の放流数は最大で0.5~0.6億尾と推定され、H20年度の放流数0.66億尾の75~90%となることが見込まれます。なお、採卵は例年10月以降に行われるため、今年度も9月30日までの実績はありません。

 福島県内の10ふ化場のうち、今年度は5ふ化場で放流を実施する予定です。但し、1ふ化場では種苗生産を行わず、稚魚を他のふ化場から譲り受けて放流する計画です。今年度の放流数は最大で960万尾程度となり、H21年度の放流数4800万尾の約20%となる見込みです。なお、採卵実績については、情報を入手することができませんでした。

3.まとめ

 東北地方におけるサケ漁業と増殖事業は、関係者の懸命の努力により、地震発生直後に懸念された壊滅的状況から相当程度復旧が進んでいます。

 しかしながら、漁期前予測通りの来遊数の増加や漁業の復旧の遅れが生じた場合には、河川に大量の親魚が遡上し、処理が追いつかなくなるといった問題が生じることも懸念されます。一方、北海道では来遊実績が予測を下回る現状もあり、東北地方での種卵確保も予断を許さない状況です。

 これからピークを迎える東北のサケ漁業と増殖事業が何とか順調に進み、将来の回帰に重大な支障が生じることのないよう、関係者の取組みに加え、水産総合研究センターとしても、増殖事業に対する技術的な支援を続けると共に、サケ漁業と増殖事業の復旧状況に関するモニタリングと関係者への情報提供を行い、東北水産業の復興に向けて尽力する所存です。