緒 言
インド洋は,太平洋,大西洋に次ぐ3番目の大きさの大洋であり,生物地理学的にはインド・ 太平洋の一部を形成する.浅海性魚類については,インド洋と西部太平洋に連続的に分布する 魚種が多数見られるが,インド洋には西部太平洋とは異なる魚種も分布している.一方,イン ド洋の深海域の調査が不十分なため,深海性魚類に関する知見は限られている.インド洋南西 部の深海には,南西インド洋海嶺(South West Indian Ridge),マダガスカル海嶺(Madagascar Ridge),中央インド洋海嶺(Mid-Indian Ridge),東経90度海嶺(Ninety East Ridge),ブローク ン海嶺(Broken Ridge)があり,これらの海嶺の魚類相を調査することはインド洋の深海性魚類の多様性を研究する上で重要である.
水産総合研究センター開発調査センターは南西インド洋海嶺とマダガスカル海嶺の深海性魚 類の調査を2009年8月〜2010年8月と2012年11月〜2013年1月に中層トロールと着底トロールに よって実施した.その結果,キンメダイBeryx splendens,オオヤセムツEpigonus telescopus,ミ ナミクサカリツボダイ(新称)Pentaceros richardsoni,ミナミクロメダイSchedophilus velaini, ナンキョクメダイHyperoglyphe antarctica が多く漁獲され,3 未記載種を含む46種の魚類が採 集された.この結果はインド洋の深海から今後も多くの未知種が発見される可能性が高いこと を示唆している.本書に収録された魚種は多くはないが,分類,分布および生態について新た な知見が得られた場合が少なくない.本書の出版はインド洋の深海性魚類の分類や生態に関す る研究の進展に貢献できることを確信している.本書の出版を契機として,知見の少ないイン ド洋の深海性魚類の研究が進展することを願っている.
2016年2 月
著者一同を代表して
松浦 啓一